2014年05月26日

5/23-25日記(天ぷら「あかし」、明治座5月中村米吉たっぷりコース)

Pop is dead.■5/23
・10時過ぎに半蔵門に入る。チェーン店を除くと、開いている店がない。しかたなく居酒屋に入る。東南アジア系の夫婦らしい男女が切り盛りしている店だった。焼鳥、厚揚げにビール、日本酒。悪くはない。2,500円也。

■5/24
・朝食食べず、よみうりギャラリーへ。篠山紀信撮影の歌舞伎役者写真展(無料)を見に行く。快楽亭ブラック師匠からチラシをもらっていたのだが、中村米吉の写真はチラシ掲載の物(助六に出てくる遊女だったと思う)ではなく、稲田姫に替わっていた。直接見に来て良かった。
・将門公におまいりして、丸ノ内線で銀座へ。シネパトス閉館の掲示を見て「四半世紀にわたってご愛顧頂き」という文言に驚く。そんなもんだったのか、もっと古くからある印象だった。
・新しい歌舞伎座はジジババであふれかえっている。歌舞伎座バブルは収まったと聞いてたんだけど、これだとまだ2〜3年は歌舞伎座には寄りつかない方が良いなあ、と思う。5階の売店で過去の舞台写真が入手できると聞いて見に行くが、あつかっているのは1ヶ月前の歌舞伎座の舞台写真のみ(他の劇場の物は無い)で、今月分は劇場内でのみ販売ということなので、特に買いたい物なし。私が「当代一の大根役者」と思っている澤村由次郎の舞台写真があって笑ってしまった。ファンがいるのかね。コメディーとして見れば面白い演技ではあるけどね。

・都営浅草線で浅草へ。中国人であふれかえる観音様におまいりして、六区あたりをぶらぶらする。東洋館にジキジキ、寒空はだか出演。時間が合えば見たかったが断念する。

・Twitterで三木のり平の息子、小林のり一さんに教えてもらった天ぷら屋「あかし」に向かう。昼は並ぶらしいと聞いて、開店の30分前から並ぶ。蕎麦やラーメンに並ぶ気はしないが、どういうわけか天ぷらに並ぶことはおかしく感じない。
・11時半に入店。その時点で長蛇の列が出来ている。
・1,600円也の上定食を頼む。海老2、きす2、ししとう、茄子、芋、小海老かき揚げ、ごはん、味噌汁。まとめて出てくるのではなく、30分くらいかけて1品ずつ出てくる。それでこの値段であれば、確かに値打ちだと思う。ただし、特別にうまいという訳でもなかった。特に海老は大ぶりの物で、いわゆる「さいまき」と呼ばれる小ぶりのうまい海老、東京の天ぷらの主役である、ああいう海老ではなかった。冷酒が瓶のまま出てくるのも少し興ざめ。
・でも東京のしっかりした天ぷら屋という雰囲気はすごくあって、揚げ手の主人が客の様子を見ながら細やかに気を遣う様子は、老舗の蕎麦屋にも通じる江戸流の接客だと感じた。最初にごはんと味噌汁が出るのだが、私がお酒を注文すると「じゃあごはんは後からにしましょう」と下げてくれる。それも悪いので「いや、良いですよ」と言っても下げて、後から出してくれる。こういうカタクナな感じが、江戸の店、という感じじゃないですか。

・さて、この店には「罠」がある。つまり、11:30の開店と同時に入店しても、食事にありつくのは12時過ぎになるかもしれないのだ。つまりですね、席は15くらいあるんだけど、半分くらいの客から注文を取った後、主人はその分だけ揚げに掛かるんですね。で、30分くらい掛けて第一陣のメニューを全て揚げ終わって、それが全て終了してから、残りの客の注文分を揚げ始める。
・普通は、後から注文した客の分も同時並行で揚げる物だけど、ここの主人は全員分揚げない。メニューを一つ一つ、完全に処理してからじゃないと、次のオーダーに取りかからない。油の温度だとかダンドリの関係、それこそ揚げ手のこだわりの世界だと思うんだけど、最初の注文取りで二軍落ちした客は、他人がうまそうに天ぷらを食べているのを見ながら、そのメニューが終了するまで待たなければいけないのだ。なんというトラップ!

・30分ほどで店を出る。外に客が並んでいるので「お腹が落ち着くまで、食後のお茶を飲んで時間を潰す」ってのが出来ない。これが天ぷら屋としては問題。店の外では、列が更に長くなっていた。2、30人は並んでいたんじゃないか。最後尾の人は何時に食べられることやら。
・口は悪いが、この程度の店でこれだけの行列が出来るものなのか、と思うのだが、つまり今の浅草ではこういう良心的な店がなくなった、ということなのかなあ。乱暴に揚げた巨大な海老に妙に甘ったるいタレをかけた天丼みたいな物が幅をきかせて、こういう「当たり前の天ぷらを出す天ぷら屋」が浅草でも絶滅の危機に瀕しているから、こういう店に客が集中するんだろうか、と考えた。

・浅草から浜町まで歩く。途中ドラマ「大川端探偵社」の外観ロケ地を偶然発見する。「スケガワ」の看板はあまりに目立っていたのでてっきりセットだと思っていた。だから、どこかと思って「スケガワ」でweb検索することもなかったのだが、実在する会社なのだった。

・明治座でチケットを発券し、甘酒横丁を歩く。明日の弁当を買うためにアタリをつけておこうと思ったのだが、弁当屋は意外と少ない。本屋で「二流小説家」を買って読みながら時間を潰し、15時からブラック師匠の一番弟子、快楽亭ブラ坊(ぶらぼー)さんと浜町のやぶそばで軽く呑む。この店は「天抜き」がメニューに書いてあるのが良い。「裏メニュー」としての天抜きを注文するのは嫌味だと思うが、メニューに書いてあれば堂々と頼める。さてこの店は盛りが良い、というか多いなこりゃ。蕎麦はしっかりと香りのする物で、さすが。店の前はきたないし(メダカの入った青バケツなど並んでいる)ドアは自動ドアだし、店内もどうということのない雰囲気だが、蕎麦はちゃんとしている。

・軽く話して、明治座夜の部へ。歌舞伎「伊達の十役」僕が猿之助(現・猿翁)を初めて見たのが確かこの演目で、猿之助歌舞伎の中で一番好きな作品。早替わりは子供の頃見た物より格段にスピードアップしていて、実に素晴らしかった。特に一幕目は、シルクドゥソレイユや劇団四季なんかと比べても遜色のない、万人受けする最高のエンターテインメントなんじゃないか。
・あきらかに「これはダメだろ」と否定すべきは染五郎の道哲くらい。アレはダメだろ。もうちょっと何とかならんか。

・二幕目は先代萩のアレ。鶴千代・千松の場面。これはしっかりと古典。染五郎の政岡に、八汐は歌六。歌六の八汐ってイメージできなかったけど、これが良かった。政岡は、染五郎がやると乳母らしい丸さ、柔らかさがなくなる分、忍びをやっつけるスーパーヒーロー的なかっこよさが出てきて、これはこれで良い。実に憎らしそうな顔をして千松の首をえぐる八汐と、それを表情一つ変えずに見る政岡の対比が凄い。良い配役だ。
・歌六というと、猿之助一座にいた頃は「シュッとした色男だけど、実は悪役」という役柄が多かったように記憶してるんだけど、この頃はこういう「いかにも悪役らしい脂ぎった悪者」が良いのかも。顔のインパクトなら左團次、演技力なら歌六という感じか。
・床下の場面は、子供の頃は変だと思っていた。なんでこの場面だけ、場違いに隈取りの男が出てくるのか不思議に思っていたのだけど、これは「ケレンだけでなく、古典の様式もちゃんと取り入れたい」という猿之助の思いなんだろうな、と気付いた。時代物や荒事の要素も入れたい、という事だったんだろう。
・二幕目の最後に宙乗り。この仁木弾正の宙乗りは、僕の中での「ナンバー1宙乗り」弾正が長袴を引きずりながら空中を歩く演出は、最も「静かな宙乗り」であり、実に良いと思う。今回、私の席は3階宙乗り小屋の真下だったので、染五郎がこっちを睨みながら向かってくる。

・三幕目はこの演目の中では冗長で玉に瑕、という感じなのだけど、大詰めの染五郎が良かった。そこに幸四郎が居るのかと思うような、同じ声・同じ顔になる瞬間が何度かあった。つまり、それほど迫力があった。
・終わってみて「歌舞伎を見て、ここまで満足感を得たのは久しぶりだな」と思った。今までも「楽しかった・面白かった」と思う芝居はあった。例えば数年前に見た「人間豹」なんか随分面白かった。しかしそれこそ「お腹いっぱい」だと感じたのは久しぶり。いやあ、良かった。

・夜は門前仲町ビッグホーンへ。実に久しぶり。ごく軽く呑んで帰る。

■5/25
・朝はマクドナルド。気になっていたスクランブルドエッグの乗ったプレートを食べる。マフィンがぐにゃぐにゃで不味かったのを除けば特に文句はない味だったが、食べた後に気持ち悪くなったので、やっぱりあまり良い物ではないようだ。
・関山(かんざん)で寿司を買ってまた明治座へ。今日は昼の部を見に来た。

・昼の部の目玉は、中村米吉が静御前を演じる「義経千本桜・鳥居前」たぶん一度も見たことのない場面で、つまらないのかと思ったらそれなりに面白い場面じゃないの。
・何より、約1時間の公演時間中、静御前(中村米吉)が舞台に出づっぱり、常に米吉を見ていられる、というのがなんとも素晴らしい。米吉は歌六の息子という血筋ではあるがまだ若いので、まだ端役しか付かないことが多い。今月明治座の夜の部も、まあ端役に近い形
・しかし若手中心の昼の部ではこの大役。これが見たかったのよ。日本全国の米吉ファン待望の時です。実に静御前的、ナチュラルボーン女形、歌舞伎でこんなに可愛いお姫様を見たことがない、と感動する。
・オマケに緊縛シーンまである(静御前が梅の木に縛られる)わけであって、これはやっぱり見に来て良かったというか、これを見ずに死ねるか、という感じだった。
・荒事の主役である弁慶(種之助)・忠信(歌昇)が小柄で、演技は悪くないのだが「子供芝居」を見ている様な雰囲気がある。ちょっと変だ。義経(隼人)の演技があまりに平板。早見の藤太(吉之助)も演技は良いがひょろっと背が高い感じがして、これもなんか見た目が変な感じ。つまり、私のように米吉が好きで仕方ないような人間でなく、普通の客が見ると、正直いまいちな芝居だったのではないかね。

・二幕目は「釣女」おそらく狂言を元にしたコメディー。美人役に中村壱太郎(かずたろう)、醜女役に亀鶴。壱太郎を見て「ウーム」と思う。米吉はナチュラルボーンな女形だが「人の作りしもの」としての女形、芸・技としての美しさでは壱太郎が段違いに良い。まだ23歳でこの芸、末恐ろしい役者だ。調べたら翫雀の息子なのか。翫雀の「操り三番叟」はアクロバティックで凄かったな。
・黒澤明「乱」でピーターが歌っていた「あんの山から〜、こんの山から〜、飛んで出たのはなんじゃるろ」が出てきた。「釣女」がオリジナルなのか、松羽目ものの定番なのかは知らない。
・醜女の亀鶴が良い。正直、この演目は過剰なコメディーで笑いが下品すぎ、あまり好みではないのだが、亀鶴が愛嬌たっぷりに、楽しそうに醜女を演じているのが良かった。壱太郎を笑わせようとしたり、アドリブっぽい動きもあったのかな。

・三幕目「櫓清の夢」は軽い演目ながら、古典のパロディーを盛り込んだ少し難解な作品。ここでは米吉が鳥追い(芸者のようなもの)、壱太郎が主人公の女房と芸者の二役。ここで米吉と壱太郎の芸格の違いがはっきりと出て、ふたたび「ウーム」とうなってしまった。
・壱太郎は、町人の女房も、花魁も芸者も、そしてお姫様もできる。それぞれに美しく説得力がある。しかし、米吉は芸者が出来ないのね、鳥追いというのは言わば下級の女芸人であって、スレた感じが必要になると思うんだけど、米吉がやると可愛すぎてしまって、鳥追い役に説得力がない。米吉はお姫様や裕福な町人の娘、なんかはビシッとはまるんだけど、物語を持った女・過去を背負った女を演じるにはまだまだだ。この鳥追いも、見ていて「ああ、これは壱太郎の役だな」と感じてしまった。
・ここでも亀鶴が良い。これもコメディーなんだけど、しっかりと六方を踏んで、迫力がある。
・歌六は「日中は男で、夜になると性転換して女になる」という妙な登場人物を演じる。化粧も変えずに男女を演じ分ける難しい役をそれなりにこなしていたが、もっとやり方があるようにも思う。

・染五郎は二幕目と三幕目に登場。夜がハードなので、昼は軽めの演技だが、しかしそのサラッとした感じが良い。粋な感じというのかね、結構でした。
・明治座二日連続観劇、夜の部は文句なし。昼の部は中村米吉ファンにとっては夢の世界、どちらも素晴らしかった。ほんと、わざわざ行って良かった、と思える芝居でした。

※中村壱太郎のことを「壱之助(かずのすけ)」と自信満々に誤記していたので修正しました。おそらく落語家の「春風亭一之輔(いちのすけ)」と頭の中で混ざっていたのだと思います。面目ない(2014/6/11)
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