2014年12月24日

国立劇場「喫茶・十八番」讃歌

Pop is dead.・芝居を見に行く時、食事をどうするか?というのは大きな問題である。歌舞伎というのはたいてい、昼前から夕方とか、夕方から夜9時とかいう時間の公演なのです。だから、一食は劇場内で食べる事になる。快楽亭ブラック師匠などは30分の幕間に劇場外に出て外のレストランで食事をするみたいだけど、時間的にそんな余裕ないからね、僕は劇場内で食べる。
・劇場内には食堂があって、多くの客はそこで幕の内なんかを食べる。上記のような時間に公演を組むってのは、つまりこの食堂の収入も劇場の売上になるからですね。あとは、公演前に弁当を買っておくという手もある。

・歌舞伎座や新橋演舞場、大阪なら松竹座だと、近くに百貨店がいくらもあるので、弁当を買っていくのが正解ですね。明治座や南座の付近でも、適当な弁当屋は見つけられると思う。
・問題は国立劇場だ。半蔵門で降りて劇場まで行く間、弁当屋らしい店は無いのですね。国立で芝居を見る時に困るのが食事なのです。
・ちょっと余談になるけど、実はあるんです、弁当屋。サンマルクカフェの出口を出て、左右に通りが通ってるでしょう、右にですね、5分も歩かない内に「桔梗あさひ」という店があります。ここは居酒屋なのかと思うんですが、弁当も売ってるんですね。ちょっとおかずが塩っ辛い気もするが、わりと廉くて旨い。この店は先述のブラック師匠に教えてもらいました。

・で、国立劇場に来た時の食事なんですが、僕はよく3階の「十八番(おはこ)」という店に行きます。2階の大食堂じゃなくて、3階の方ね。
・母に連れられて初めて行ってから30年くらい経ったけど、変わらないねえ、この店は。昔は、芝居の休憩時間になると、店のカウンターに料理がもう作ってあるんですよ。カレーとミートソーススパゲティ、この2品がずらーっと並んでる。ウェイターの小父さんが、客の注文を取ってすぐにそれを持って駆けつける感じ。
・幕間って30分やそこらで、時間が無いんですね。店としてもその時間でどんだけ稼ぐかだから、もうセカセカしてるんですよ。当時、ウェイターは一人だったと思う。ほんと、料理を持って「駆けつける」って感じなんですね。なんかね、雰囲気的にはラグビーね、ボール持って走ってきて、横にパスする感じね。カレー皿の形もラグビーボールに似てるし、そんな感じですよ。

・で、今はセルフサービスになってて、入り口近くにレジがあって、注文を聞いて、客はカウンターで料理を受け取るという方式。レジの前に立ったら即座に注文しないといけないんですよ。もうね、レジのお姉ちゃんも殺気立ってる。以前から居た小父さんは、カウンターで料理を出す係。
・客も店も時間が無いんですよ。レジ前で何食べようか迷ってる客は論外ね。しかも人があんまり注文しないレアなメニューを頼むと「お時間かかりますけどいいですか!」って叱りつけられるのね。「いいですか!」って、語尾が「?」じゃなくて「!」なんですね。「おめえ、何注文してくれてんだよ!」の「!」。
・僕は空気を読んでカレーですよ。「カレー」って言って0.3秒後にカウンターの小父さんが「カレーすぐ出来ます!」って叫んで、用意してある御飯にルーぶっかけて出してくれる。乱暴にかけるから、皿の縁にルー垂れてる。
・乱暴だし、スピーディーだし、声出すし、緊張感あるし、スポーツみたいな感じ。スポーツ喫茶。もうね、店VS客の試合ですよ。おもてなしとかじゃなくて、店と客が戦う感じね。店としても「とっとと注文して、食って、出てけ!」ってとこでしょ。水くみに立ち上がっても「ありがとうございました!」って追い出す感じだしね。

・で、このカレーが780円だったかな、廉くない。法外に高いわけでもないけど、サラダもコーヒーも付かずにセルフで780円、廉くないねえ。
・これね、素人だとですよ、「うまくもないし廉くもない。こんなモノを、なんでこんな雰囲気で食わなきゃいけないんだ」って怒るとこですよ。でも、それ、分かってないね。こういうのが良いんですよ。
・何の工夫も無いカレーを、微妙な価格と最悪の接客で食べる、ここにこそ情緒があるんですよ。
・これ、新幹線の車内食堂なんかと同じですよね。不味いし接客は悪いし高いし、客が待ってるから追い出しムードがビンビンに漂ってた。あれと同じでね、ああいう劣悪な環境を愛する私としては、喫茶「十八番」は安住の地ですよ。孤独のグルメみたいに「俺には、こんなもんで良いんですよ」って呟きたくなる感じね。
・こういうさ、なんか「店に入ったは良いけど、しいたげられながら食事してる感じ」を楽しめる客、そういう「上級の客」じゃないと、この店は合わないですね。というか人生の上級者、生き方の黒帯持ってないと、こういう店の良さは分からないですよ。
・だって今、ないでしょ「うまくも廉くもないし、接客が良くもない、内装も殺風景」そんな店、すぐに淘汰されるから無いですよ、町に。ほんと、貴重な存在だと思うんですよ。消えゆく昭和の、そのしっぽの端っこみたいな、そういう店ですよ、ここは。
・劇場の中だから生き残れるようなとこがあるわけですよね。競争がないわけだから、実質的に。だから30年以上もこんな感じで営業してるわけだね。レシートには確か「喫茶モア」って書いてあったけど、劇場外の店もやってるのかね。どうなんでしょうね。

・しかし何はさておき、愛すべき店ですね、十八番。食べるのはカレーかミートソースね。ミートソースも昭和なんだよねえ。ところでミートソースは羊肉使うようになったのか、ちょっと味が変わったね。
・ま、そういう殺伐とした店なんだけど、水にレモン入ってたりするのが、なんかガラに合わないサービス精神だとか思うんですけどね、でも水にレモン入れるってのも、まあ「昭和のセンス」ではあるよね。
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