2016年04月25日

歌舞伎座「不知火検校」感想(今更12月国立・1月浅草の感想も)

Pop is dead.・歌舞伎座で「不知火検校」を見た。
・まず最初に染五郎の「操り三番叟」ここ数年で、翫雀、右近、猿弥の操り三番叟を見たが、染五郎のはその中で最低の出来だった。踊りのことは良く分からないけど、少なくとも操り人形が踊っているようには見えない。舞台上では、ただ染五郎が楽しそうに踊っているだけだ。この人、スター性が強すぎて「人格を消して人形になる」ってことが出来ないのではないか。

・次が「不知火検校」勝新太郎主演で映画にもなり、井上ひさしも芝居にした演目(井上ひさしのは「薮原検校」だけど大筋では似たような話)
・生まれつき目の見えない富の市という按摩、子供の頃から手癖が悪く、大人になっても盗みや殺しの悪行を尽くして金を貯め、金の力で盲人として最高の位である「検校」になるが、最終的に捕まる、という非常に単純な話。
・幸四郎はやっぱり悪役が似合う。「顔がデカ過ぎて伊右衛門はちょっと…」という向きでも、この役なら評価するのではないか。小ずるさ、ふてぶてしさ、冷血さ、そして更に悪人特有の愛嬌もある。宇野信夫作品だから芝居のテーマに現代性があり、現代劇の経験も豊富な幸四郎の演技が冴え渡る、という感じ。幸四郎が最初に演じたのは3年前だけど、なんでそれまで演らなかったんだ、と思う程の当たり役

・幸四郎に手込めにされる侍の妻が魁春。この芝居の中で魁春だけが浮いていて、その浮いた感じが「侍の妻という特別な存在」をよく表していて良かった。
・澤村由次郎は殺される役。やめてくれないかなあ。この人が「ウワァー!」ってあの渾身の演技で死ぬと、こっちは吹き出してしまう。
・あえて苦言を呈するなら、場面転換が多すぎてせわしないこと。あと松也はちょっと物足りなかった。

・しかしこの不知火検校「こっちが障害者だと思って金を盗んだな」と因縁を付けて若旦那から金を巻き上げる。困った女に「金を貸す」と言い寄って手込めにし、最終的に金は貸さない。師匠を殺して金と身分を奪う。目が見えないのに美人と結婚したがる。妻が不倫をしていることを知っていながら放っておき、さらに妻が愛人に渡すと分かっていながら金をやる。かと思えば愛人(指物師)に棺桶代わりの長持ち作らせ、妻と愛人を二人殺してその棺桶に入れる。この屈折ぶりは大したものだ。
・最後、捕まって引き回されている間に民衆から石を投げられ、額から血を流しながら「お前らは目開きのくせに、俺のような大きな事もできず、したいこともせずに老い朽ちてゆくんだ」的なセリフ。正義の名の下に大衆がよってたかって悪者を断ずる事の怖さ、ネット上のリンチとかを想起させ、現代にも通じる強い批判性を持った台詞だと思って身震いした。しかし「こきたねえババア」という台詞で客席が笑う。言葉の表層しか捉えられない客のなんと多いことか。お前らは歌舞伎になんか来るな、きみまろ公演にでも行ってろ!
・だってこの台詞は「悪人ではない人たち」つまり、観客を含めた多くの日本人に対する批判なわけでしょう、みんなが「俺のことか!」って思い、不知火検校の論に反駁しながらも、内心うしろめたさを感じたりするような、そういう台詞ですよ。そんな台詞で笑えるかよ。
・そういうわけで、現代劇を見たような、というか西洋劇を見たような感覚になった。

・最後が「身代わり座禅」主人が仁左衛門、奥方が左團次、太郎冠者が又五郎。左團次はこういう役はお手の物。若手だと亀鶴が得意そう。
・侍女に中村米吉と中村児太郎。米吉は当たり前だがつくづく可愛い。これで男だってんだから信じられない、という可愛さ。
・帰ってきて奥方に気付く仁左衛門の動きと表情が芸術。気付いた瞬間の驚きから恐怖に至る顔の変化と動きが、黒澤映画のスローモーションのように見える。

・昼はタリーズのサンドイッチ一つ。終演後、伊東屋で万年筆を見て手ぬぐいを買ってから牛込神楽坂「梅香(メイシャン)」へ。前菜盛り合わせ、海老の塩炒め、酢豚、じゃがいもの腐乳炒め、ふきのとうのチャーハン、海老そば。うまかったけど、もっとうまいメニューがあるに違いない。
・その後、門前仲町BigHornで痛飲

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(以下、途中まで書いて書きっぱなしだった昨年末と今年正月の観劇記録)
・12月は国立劇場、1月は松竹座と浅草公会堂で芝居を見た。

・12月国立劇場は「東海道四谷怪談」悪くはないが、特に良くもなかった。今年、新国立劇場で見た新劇演出の「東海道四谷怪談」とどちらが良かったかと考えて、よく分からない程度。序幕と大詰めで忠臣蔵のスピンアウト作品だと強調するのは付けたりだという気もする。
・良かったのは染五郎の小仏小平。頼りない男で、主人のための薬を手に入れるために安易に盗みに走るとか頭も弱そうで、しかし忠誠心だけは強い、という「取り柄は忠誠心だけの男」をよく表現していたように思った。お岩さんはあんまり良いと思わなかった。
・あと萬次郎が伊右衛門の母親役をやっていて良かった。普通の演出より過剰な化粧なのかも知れないが、あれくらいやると面白い。
・対してマズかったのは錦之助で、足の不自由な侍が薬を飲むと立てるようになる、という場面で「ピョンッ!」って跳び上がって立つのとか、あれじゃあコメディだよ。
・あと彌十郎と亀蔵が低調。彌十郎が低調なのは普段通りで気にならないけど、亀蔵の按摩宅悦はいかにもこの役者向きの役だし、彼ならいくらでも工夫のしようがあろうと思うのに、随分さらっと演じていて何も心に引っかからなかった。
・幸四郎の伊右衛門はまあまあ。お岩を裏切った後悔を瞬間的に深くにじませる所は、個人的には好きだった。

・1月松竹座「帯屋」「研辰の討たれ」「芝浜」
・午前中は「らくだ」をやっていて、「帯屋」は落語「胴乱の幸助」でお馴染みの作品なので、随分落語ファン寄りの演目セレクトという気がする。
・壱太郎の丁稚長吉が良かった。藤十郎は台詞の間があるたびに「台詞忘れたか?」とビクビクする。中車は最初の頃と比べると随分マシになった。

・同じく1月浅草公会堂は新春の若手歌舞伎。はっっっきり言ってしまうと「別に見るべき芝居ではない」ということになってしまう。身も蓋もない言い方をすれば「若手のお目当ての役者を見るために行く芝居」という物だ。
・昼の部の冒頭「三人吉三」は隼人が下手なのでどうにもならない。踊り「土佐絵」があって「切られ与三郎」
・お富さんの中村米吉は可愛すぎて「死んだはずだよお富さん」のイメージではないけれど、しかし「若くて可愛いが、強がっている女」という解釈であれば、あれはあれで良いのかも知れない。そういう風に見ると、松也の与三郎との取り合わせというのは初々しくて、青春!って感じ。しかしまあ、従来のイメージからは離れすぎではあるな。
・蝙蝠安をやっていた澤村國矢という人が良かった。
・夜の部は「毛抜」だけ見て帰る。巳之助は顔の作りも声のでかさも荒事向きで良いと思った。毛抜にはBL要素があって、巳之助が演じる粂寺弾正が、中村米吉演じるお小姓(男。秦秀太郎)を四つん這いにさせてイチモツを尻に押し当てるわけです。良い感じの倒錯ぶりだった。良い物を見た。
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