2017年01月30日

東京・松崎・清水・浜松

Pop is dead.■1/26
・昼、銀座「小笹寿し」へ、冬になったので再訪。お酒は冷酒にして、つまみに皮剥。肝ポン酢で食べるのだけど、このポン酢が良い。柑橘類の皮の苦みというかピリッとしたスパイシー感のバランスが絶妙だった。その後、お寿司は平目、鯛、皮剥、鱚、づけまぐろ、トロ、鯖、あわび、小肌、青柳、うに。これで18,000円弱。

・確かにうまいのだけど、やっぱり私としてはもっとネタの小さい鮨が好きかも知れない。平目なんかものすごく厚っぷりに切ってあったけど、好みで言うとちょっと違うなあ(以前行った時の海老、穴子なんかも巨大だった)次は別の店に行ってみよう。
・時間が空いたので八目鰻の肝油を買いに、銀座線で浅草へ。さすがに銀座線は東京最古の地下鉄だけあって、地下の随分浅いところを走っている。そういえば地下鉄のホームというのは、上り下りでホームが別々になっているのと、一つのホームで両方を兼ねてるのがありますね。それぞれのメリット・デメリットにはどういうものがあるのだろう、などと考えて電車に揺られ、田原町で下車
・浅草演芸ホールは満員、東洋館、ロック座は出演者に食指が動かず、フルーツパーラーゴトーは定休日と浅草にことごとくフられ、ロックスで用を足して銀座へ戻る。資生堂パーラーで甘味を入れようと思うがここも満員。平日の昼間だから空いてるだろうと予想したのが甘かった。銀座には平日昼間にヒマな女がたくさん来ているのだった。仕方ないので新橋演舞場まで歩き、近くの紅茶屋でパフェ。パフェおやじ。

・演舞場開場後、すぐに舞台写真売場へ。中村米吉の写真はなんと17枚(他の役者と共に写っているものを含む)これまでで最多なのではないか。全て購入して開演を待つ。
・最初は「義賢最後」海老蔵の義賢は、嫌いではないけど気品に欠けて芝居が臭い。顔が良いから見得は決まるし、血まみれになった後の迫力もあるんだけどねえ。まあこれから良くなるでしょう。米吉は父との別れを惜しんでヨヨと泣き崩れるお姫様。いつも通り可愛いが何かが足りない。中車は一応、歌舞伎っぽい演技になっていた。
・口上は男女蔵が持っていくのかと思ったら海老蔵が主役だった。
・次が「錣引(しころびき)」ここでは米吉が悪人を退治する強いお姫様という良い役所で出てくる。悪人役は九團次、本来この人は色悪なんかが似合うと思うのだけど、今回は赤面の汚れ役。師匠に破門されての本人の零落(?)ぶりと重なって切ない。芝居自体はくだらない内容で、怪力の景清が錣(兜の後ろの扇形の所)を引きちぎるので「錣引」この演目が荒事に分類されるのかどうかは知らないけれど、そういった感じの馬鹿馬鹿しさがある。
・最後が猿之助の「黒塚」これは当然ながら良いわけで、この演目がなかったら来なかっただろうし、この演目がなかったら見た後の満足感も全然違ったろうと思う。ただ、正月公演でやることが適切かというと疑問ではある。

・銀座のキャビアバーで飲もうかと思ったが歩くのもいやだし断念し、門前仲町BigHornで痛飲

■1/27
・いよいよ旅に出る。新幹線で熱海まで出て炙り金目鯛の押し寿司を買い、特急踊り子で伊豆下田へ。旧式でボロボロの車内はまさかの満員。後ろの中年夫婦が、幼児のように駅名や景色について目にしたものをいちいち大声で口に出す。我慢出来ないのでカナル型イヤフォンを耳に突っ込んで音楽を聴く。電車は強風で当初はかなり遅れていたものの、ほぼ定刻通りに下田に着く。バスが来ているのですぐ乗り換え。途中、蓮台寺という駅で少し停車する時間に、一人のおじさんがバスを待たせて途中下車。用を足しに行ったのかと思ったら、モナ王を二つ帰って来た。
・下田から伊豆半島を横断する形で、だいたい50分で目的地の西伊豆・松崎に着く。チェックインには早いので宿に荷物を預け、鏝絵の名工として有名な入江長八の作品を集めた長八美術館へ。「春暁の図」など、女性がなまめかしく美しい。近くの長八記念館は明日見ることにして付近をブラブラし、フランボワーズというケーキ屋さんで時間を過ごす。ここの店員さんも美人で、こっちは美人が多いのだろうか、と思う。店を出て松崎港までとぼとぼ歩き、海を眺めてから宿へ。

・今日の宿泊先は「長八の宿」こと山光荘。入江長八の鏝絵が残っていることで有名だが、それ以上にサブカル野郎にとっては「つげ義春の作品に出てきた宿」として知られている。

・「今日は、長八の間にお客さんは泊まってますか?」と確認すると居ないようだったので、お願いしてこの宿のスイートルームである「長八の間」を見せてもらった(あとから気付いたのだけれど、どうやらこの日、この宿の宿泊客は私一人だったようだ)この部屋はもともと「座敷蔵」だったらしく、1Fが倉、2Fが客間という構造。今は1Fが食事スペースになっているので、言わばメゾネットタイプのスイートルームになる。倉の外装に、長八の手によって虎と竜の鏝絵が施してあるのだけれど近くで見ると虎の描写が繊細で、こんなに細かいものがよく風化せずに残っているなあ、と感心する。あと、どこかに雀の鏝絵があったけどどこだったか失念。さらに倉の中には亀の漆喰細工が収められていたとのことで、青龍・朱雀・白虎・玄武がそろっているわけだ。
・さて案内をしてくれた女将さんはかなりのご高齢とお見受けしたが実にしっかりしており、つげ義春から来た年賀状やロビーに飾ってある来訪者の色紙について丁寧に説明してくれる。昨秋は山田五郎が取材に来たらしい。古谷一行の「悪魔が来りて笛を吹く」の撮影もここでしたそうで、私の部屋(牛原の間)はなんとその時に殿山泰司が滞在した客室らしいのだった(しかし帰って調べてみると「悪魔が来りて笛を吹く」には殿山泰司は出ていないようだった。「三つ首塔」の誤りだろうか、判然としない)

・風呂は温泉で、比較的せまい岩風呂。海に近いが湯は塩辛くない。夕食まで風呂に入ったり本を読んだりしながら時間を潰す。突然、バタバタと足音がして仲居さんがノックもせずに部屋に飛び込んできて「夕食の支度をします」と宣言する。約した時間にはまだだいぶ早いのだが、断れない雰囲気だったので承諾する。
・料理は決してぞんざいに作ってあるわけではないが、しかし決してうまくはない。特にからすみの生臭いことと、漬物の不味いのには辟易した。ただ、地物と思われる魚の刺身はさすがにうまい。これはさすがとしか言いようがない。
・夜、寝ようと思って部屋の電気を消すと無音。例えば冷蔵庫が遠くでジーッと鳴るような音もなく、ただひたすらに深い静寂になる。音がしない中で耳をすましていると耳が痛くなる、それほど静かなのだった。

■1/28
・朝、風呂に入っていると、そのスキに仲居さんが部屋に入って布団をすっかり上げてしまった。朝食の時間も早くなると言う。昨夜もそうだが仕事はさっさと済ましてしまいたいようだった。朝食もうまい物なし。味噌汁と漬物が不味い。ただ単に不味いのか、この地方では発酵食品はこういう味なのか、よく分からない。味噌汁でごはんを食べることが出来ないので、仕方なくわさび漬けで茶漬けにする。
・さて温泉に行った時、風呂に入る時間として最も良いのは10時前後だと思う。日の光が差す角度が絶妙で、風呂場が美しく照らし出され、水蒸気がキラキラ光る。この時間に入る風呂が一番気持ち良いと、以前、群馬・四万温泉の積善館で気付いた。そういうわけでチェックアウト前にもう一度風呂に入ってから宿を出る。
・長八記念館に行くとまさかの臨時休業。中瀬邸(なかぜてい)という旧商家の建物を見学して、海側の道をぶらぶら歩いてバスターミナルへ。少し道を外れると砂浜に出られるのだけれど、浜を散歩している老人が数人、昨夜は強風だったが今朝は穏やかに波が寄せていて、しみじみ良い光景だと思える。バス停に行くと土肥港行きのバスと、そこからのフェリーとがセットになった券があるというので購入し、暖かいので屋外のバス停でバスを待つ。

・土肥を経由して修善寺まで行くバスに乗車。松崎から乗った客は私一人だったのだが、さて、このバスからの眺めが絶佳である。バスは海岸に沿って北上するのだけれど、何しろ西伊豆の海岸線というのは峻険な無数の岬が入り組んだ地形になっている。そこを走るわけだからバスからの景色は絶えず変わり続ける上、それらの岬の美しさ、あるいは海に浮かぶいくつもの小島の美しさ、さらに砂浜を見下ろすと海水の美しさに心を奪われる。そして、そのようないくつもの絶景を堪能して、バスがある岬を回った瞬間、突然に富士山が目の前に姿を現す。
・初めて、富士山を見て鳥肌が立った。遠くから近くに寄ってジワジワ見えてくるというのではなく、急に眼前に現れるという天然の演出も素晴らしい。他の乗客は懸命に写真を撮っているが、私はカメラを取り出す気になれず。とてもそんな心の余裕は持てない、そういう絶景だった。
・土肥港からフェリーターミナルまで歩き、徒歩でフェリーに乗船する。人用の入り口があるのかと思ったらそうではなく、自動車入り口の端っこを歩いて「車のついでに乗らせて頂きます」的に乗船。港の北側に、ここにも厳しい岬があるので富士山は見えないのだが、出港して入り江を出るに従って徐々に見えてくる。これがまた何とも言えない自然の効果なのだった。

・船にはそれなりに客が乗っていた。すぐ前の席に、三河弁で大声で話す老夫婦が座って困惑する。昨日の踊り子の客やモナ王おじさんと言い、伊豆の観光客にはロクなのがいないのか!
・船は1時間ほどで清水港に着く。そこから徒歩でエスパルスドリームプラザという商業施設へ。昼食はこの中の「勇喜寿司」という主に観光客向けの寿司屋。お酒は飲まず、おきまりの地魚のにぎりに白子を追加して4,000円弱。決して不味くはないが、一方で決して「うまい!」という程でもない、しかし無難な寿司屋ではある。隣席の客がクチャクチャと尋常ではない音を出して食事をしていたが、中国人観光客のようだった。大陸ではあそこまでの音を立てて物を食べることが許されるのか、侮れない。
・無料のシャトルバスに清水駅まで乗らせて頂き、鈍行で静岡、静岡から新幹線の自由席で浜松まで。

・今日の投宿先は浜松駅東のルートイン。駅からすぐかと思ったらバカに大作りな町並みで、ずいぶん歩かされた。ここは大浴場があるので選んだのだけど、どうも当初は屋上が露天風呂だったらしく、そこにビニールシートで仮設の屋根を付けたような形になっている。それは良いのだが、何を考えているのだか洗い場まで露天だったようで、寒くてしょうがない。お湯は薬効成分を溶かした「人口温泉」らしいが、循環式のようで妙に塩素臭い。ただ、浴室の窓から新幹線が見えるのは良いね。
・夕食は地元の友人と、教えてもらった店「繁松」ですっぽん。煮こごりが出て、先付けが出て、次にふぐの薄造りがたっぷりと出てきた時にはいくら取られるかと思ったが、値段はお酒込みで14,000円程度だったか、十分リーズナブルと言える値段設定。料理はあと肝の煮付けにすっぽん鍋、雑炊、果物だったか。すっぽんは身や肉が特段うまいわけではなく、出汁に価値があるものだと知る。
・その後バーで少し飲んだ後、友人と別れてホテルに戻る。

■1/29
・昨夜はホテルの自室でサントリー角のポケット瓶を一本開けたのに二日酔いもせず。8時前に起きてホテルの朝食を食べ、荷支度をしてチェックアウトぎりぎりにもう一度風呂に入る。

・駅までの途上に楽器博物館というのがあって電子楽器も展示されているようなので、ちょっと寄ってみようと入る。これが罠だった。うかつだった。油断していた。とても「ちょっと寄ってみよう」という心構えで入るべき施設ではなかった。古今東西の楽器がある、ただそれだけなのだが実に面白い。
・どんなものにも歴史があり、例えば乗り物の歴史や建築の歴史、あるいは兵器の歴史なども相当面白いのだろうけれど、楽器の進化の歴史というのはとりわけ面白いのではないか。つまり生活や人の生き死にに直接関係せず、また効率化や低コスト化をひたすら追求するわけでもない、そのような中で進化・変化してきたから楽しいのだ。
・ラッパ部分がいくつもある金管楽器や、超小型の口で吹くアコーディオン、極端に短いファゴットのような楽器、拡声用にラッパのついたバイオリン、蓋を開けるとバイオリンになる「仕込み杖」などなどなどなど、多くの珍品を含んだ大量の楽器が展示してある。もちろん電子楽器のコーナーも面白かったが、それ以外のコーナーでも写真撮りまくり(なんと写真撮影OKなのもポイント高い)チェンバロやダルシマーなど、工芸品として単純に美しいものも多く、私のように楽器の弾けない人間でも心底楽しめた。

・さらに係員のお姉さんに色々質問しても、いちいち的確に答えてくれるのも素晴らしい。例えば僕は、ピアノの誕生以前にクラヴィコードという打弦楽器があり、なぜそこからチェンバロという撥弦楽器に移行してまたピアノ(打弦楽器)に戻ってきたのかが不思議で訊いてみたのだが、そもそもクラヴィコードからチェンバロに「移行」をしたのではなく、打弦楽器と撥弦楽器は同時に存在し、それぞれが進化をしていた、というのですね。じゃあ、クラヴィコードとチェンバロの使い分けはどうしていたのかというと、クラヴィコードは音量が小さいので一般の家庭内での演奏に使われていた、チェンバロは音量が出るので演奏会等には向くものの、機構が複雑で高価だったため一般家庭には普及しなかった、そのように使用する場面が違ったと。かように、非常にシンプルでありながら納得出来るように説明をしてくれるのだ。
・何しろ楽しくて、2時間ほど居続けてしまった。これ、博物館の滞在時間としては私史上最長なのではないか(トーハクを除く)

・帰りに今回の旅の最後の食事。浜松駅改札内の立ち食いそば屋で「ふぐ天そば」を食券経由で所望。プラスチックの丼、かまずにプチブチ切れる蕎麦と、グニャグニャの「ふぐ天のようなもの」が入っている。これは全マズ連(全国マズいもの連合)的には確実に星付き店。実に結構でした。
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