2018年02月14日

伊丹十三信者、松山・道後温泉へ行く

Pop is dead.■2/10
・約7時間かけて道後温泉へ。途中、岡山駅新幹線ホームにておろしぶっかけ(温)を食べ、宿の茶菓子として大手饅頭(内田百間先生の好物)を買う。ついでに、ままかりのアンチョビ「ままちょび」と、うどん1杯では不足なので祭り寿司(高い方)も買う。

・天気悪く、瀬戸大橋からの眺望甚だ悪し。このような中で船を操縦するなど極めて恐ろしい、と思いながら霧深い瀬戸内海の海面らしき方角を眺める。さて琴平、新居浜は何度か来たことがあるが、琴平など四国の入り口に過ぎず。松山は新居浜を過ぎてさらに随分かかったので、随分田舎だと感じる。
・松山駅を降りると小雨。路面電車で道後温泉へ。狭い車内にスーツケースを抱えて乗り込むのは地元の客にも迷惑なので、タクシーで向かうのが吉であった。
・雨の中、道後の坂を登り「道後山の手ホテル」へ。有名な旅館も多いが、どうも食事に魅力を感じなかったのでホテルにした。ここは元旅館だったのか、接客がしっかりしている。
・大手饅頭を食べて一服した後、外湯「椿の湯」へ。城崎では確か外湯は無料だったが、道後では因業にもいちいち代金を取る。タオルやボディソープなんかはホテルで準備してくれるので良いんだけど、しかし温泉旅行に来て、風呂に入るたびにお金が要るというのは、これは殺生ではあるまいか。
・その後、路面電車で大街道へ(おおかいどう。『東海道』ではなく『東海道新幹線』のトーカイドーと同じイントネーションのようだ)駅北部のロープウェー街と呼ばれる通りを歩き、今治タオルの店で良い焼き物を見つける。砥部焼というらしいが、モダンで良い色のものだ。欲しいと思ったが手頃なサイズがなく、購入は見送る。

・今日の夕食はこの通りにあるL'api(ラピ)というイタリア料理店。お通しから、よこわの燻製、おこぜのアクアパッツァ、ずわい蟹・白子のグラタン、自家製パスタ(キャベツだったかグリーンのソース)、鴨のコンフィだったか焼きもの、デザート。コースは8,000円と少し高かったが鴨肉に筋があった以外はマイナス点なし。飲み物はスパークリングワインと、オレンジワインにする。オレンジワインというものを初めて飲んだが、一口飲むとクセが強く、実に奇っ怪な代物である。しかし料理と合わせるとスムースであって、前菜から鴨肉までこれ一杯で合わせられる、というのが良い。私なんぞよりずっと舌の良い奥さんも、この店は絶賛

・帰りは丁度良い時間の電車を逃し、結局歩いて道後へ。20〜30分で着く。松山は小体な町である。確かに地理的には相当な田舎だが、観光地なので外部から文化が入り込んでくるし、それがこの小さな町で密度高く醸成されるのだろう、随分文化度の高い町なのではないか、と思える。大作りな田舎というのは、どうもこの文化的な空気というのも分散し、散漫になってしまうような気がする。
・加えて、松山にはナナメに走った道が多く、それゆえY字路や「カミソリビル」が多いのも魅力である。路面電車も好きだし、ここなら住んでもいいな、と思えてきた。
・ホテルに戻って館内の温泉に入り、深夜過ぎまで部屋で飲む。

■2/11
・ホテルにて朝食後、道後温泉本館へ。道後の風呂は、他の温泉と比べて湯気がすごい。壁画なんかほとんど見えない。アルカリ性らしいが、ヌルヌルするほどではない。ただ肌はじゃっかんツルツルする。
・一服後、また路面電車でまた大街道へ。時間がちょうど合ったので坊ちゃん列車に乗る。路面電車なら160円で座って行けるところを、800円も払って立って移動する。
・今日は駅の南側へ進み、鍋焼きうどん「ことり」へ。随分並んでいたが、非常に回転が良いので左程待たずに店内へ。メニューはうどんのみ(いなりずしもあるようだが、売り切れだったようだ)なので、自動的にうどんが出てきて、同時にお金を払うシステム。だから回転が早いのだ。このオペレーションは見事
・さてここのうどんは、ガイドブックを見ても「甘い」ってことが殊更に強調されているが、そんなダダ甘いものではない。特徴としてはむしろジャコの強い出汁と、うどんのコシのなさだろうか。550円。

・昼食後、さらに南下し石手川へ。川岸を東へ歩いてまた南下、小坂という町を目指す。別に何があるわけでもない。伊丹十三が高校時代、ここにあった多聞院という寺に下宿していたらしいので、その場所を踏みに行くだけだ。セブンイレブン松山小坂2丁目店のあたりが、恐らく多聞院の跡地であろうと思う。そこをフーンと眺めた後、さらに南東に歩き現在の多聞院へ(前述の地から移転したのだ)ここもフーンと眺めて去る。あぁそういえば、伊丹映画「あげまん」で、主人公の芸者を請け出す大僧正の名前が「多聞院」なのだ。

・ここから30分近く歩くだろうか、いよいよ今回の旅の目的地「伊丹十三記念館」へ。私は狂信的、と言ってよい程の無邪気な伊丹十三信者であります。私の人格形成にこれほど関与した『他人』は居ないと思う。高校生の頃、偶然古本屋で「女たちよ!」(100円)を買って以来だから、もう30年程の信仰歴を持つわけで、ここは言わばメッカやエルサレムやお伊勢さんのような場所ですから、やっと辿り着いた!という気分です。
・しかし歩き疲れたのでまず喫茶室でミモザを飲んで休憩。滞在時間は2時間程度だったろうか。実は展示内容についてはテレビなどで紹介された映像を何度も見ているので、ほとんど想定の範囲内。幼少期の写真、日記、絵、さらに長じてからのイラストや筆記具なども著作を繰り返し読んでいるので「ああ、アレね」という感じ。ましてや映画のパンフレットなんか「こんなもの展示して何になるんだ」と思うほどであって、映画関連はほとんどマトモに見ず。しかし台本生原稿やブース装飾(マルサの女のフィルム)なんかは良い感じだった。
・そうそう原稿用紙の使い方が独特であり、また加筆修正がほとんど無い。この件については記念館売店で売られているDVDでも触れられているが、こういう原稿は珍しいね。字が非常に読みやすい、というのも特徴の一つか。

・企画展示は最近発刊された「ぼくの伯父さん」に関連したもので、雑誌記事などなど。ここもまあ、大体が「どこかで似たような物を読んでいる」ので驚くほどの事はなし。ただ当時の生の雑誌なんかが並んでいると「あー、これはイヤミだわ!」と痛感する。同時代に彼の文章に接した青年やオジサンたちは、さぞ不快だったろうと思うよ。
・あぁ、伊丹万作の手によるいろはかるたの展示もあり、ここは見物といえば見物だろう。というか同時に並んでいる戦時中の「となりぐみかるた」が、本当にひどいものなので、来館者は是非比較鑑賞されたい。そういえば伊丹十三は太平洋戦争や、あるいは戦後の政治に対して何も書いていないね。聞き書きには戦争の話も出てくるが、伊丹十三本人の意見・主張は読んだことがない。
・売店で、ここでしか買えないが通販でも買える「十三の顔を持つ男」というDVD等々を買って辞する。さてこのDVDが伊丹信者必携の品だったが、それはまた後日にでも書こうかと思う。

・15分ほど歩いて伊予立花駅へ。ここから路面電車ではない普通の軌道線に乗って松山市駅、松山市駅から路面電車でまたまた大街道へ。なにかというと大街道まで来ているが、松山の繁華街といえば大街道なのです。この小さくまとまった単純さが、この町の良いところだと思う。
・「坂の上の雲ミュージアム」を駆け足で見た後、一六本舗で土産を買い、艶(えん)という菓子屋に寄り、郷土料理店「五志喜」へ。ここが、地雷だった。店に一歩入っただけでダメだと分かった。薄暗い店、無愛想な店員がヘッドセットを付けて対応している。テーブルには店員呼び出し機と最下等のガラス灰皿。こりゃダメだ、3品ほど食べて早々に退散。わざわざ言うまでもないが、料理もダメでした。

・北進、ロープウェー街へ。適当に「たきざわ」という店に入るが、ここがアタリ。鯛とハギ(皮剥)の刺身に、虎はぜという魚の天ぷらを食べる。虎はぜという魚を食べたのは初めてだが、めごちのような、鱚のような、穴子のような、淡泊でうまいものでした。この店のメニューには、とらふぐや鮑など高そうな食材が並ぶが、高いものでも一皿1,500円止まりで、量もそこそこある。小綺麗で一見高そうな店だが実態はかなりリーズナブルで、ここも良い店だ。昨日の店に引き続き、奥さんの評価も高く、良かった。
・さてこの店のカウンターには、シャトー・マルゴーの空瓶があった。ディスプレイかと思ったら底に1〜2mm残っている!たしか80年代物だったが、誰が飲んだのか、10万円はするんじゃないか。
・そういえば「ホータレ天ぷら」というメニューがあったが、こっちでは鰯のことをホータレと呼ぶらしい。

・路面電車で道後へ戻り、昨日同様深夜過ぎまで飲む。

■2/12
・ホテルの朝食では、卵料理はオムレツかスクランブルドエッグにするのだけれど、今回だけは目玉焼きを選ぶ。「目玉焼きを正しい食べ方で食べる」ことがしたいため。目玉焼きの正しい食べ方、について伊丹十三は「分からない」としている。何事にも正確を期するあの伊丹十三が、ここで白旗を揚げたわけですよ。しかし私は発見したのだ。少し前にここを見てナルホド!と納得したのです。
・曰く
 卵料理をいただく際にはどんな卵料理であっても共通する基本となる美しい食べ方があります。それは黄身の黄色が残らないように食べること。
・ナルホド!このように、原理原則からマナーを説く記述は信頼できる。そしてこうだ。
 一番最初にやることは黄身に軽く切り込みを入れることです。そうすることで白身を黄身につけることができるようになります。
洋食のテーブルマナー〜ナイフとフォークを使った目玉焼きの食べ方〜
・なるほど。そして、
 (引用者注:白身の部分を)左の手前から右奥へ向かって一口サイズに切って黄身をつけながら食べていきます。
洋食のテーブルマナー〜ナイフとフォークを使った目玉焼きの食べ方〜
・私は心の中でハタ!と膝を打った。これは確かに、非常に上品な食べ方ではないか。「これが目玉焼きの正しい食べ方だ!」と断じても良い、これはいかにも「正しそう」だと感心し、以来これを試してみたい、と思っていたわけです。
・念願の伊丹十三記念館を訪問し、その後に伊丹十三ですら分からないと諦めた正統な流儀で目玉焼きを食べる、これは儀式的ですよ。
・というわけで、目玉焼きオーダー、黄身をちょっと切って、白身を付けながら食べる。うん、正しい。正しいが、これ、ひとっつも旨くねえんだな。目玉焼きというのはチマチマチマチマ食べても、ちっとも旨くない。しかしマナーの前には旨さなどに構ってはいられない。果たして私は、正しい食べ方で二つの目玉焼きを食べきったのでした。
・まあ、二度とやらないでしょうな。

・食後、昨年末に完成した「飛鳥の湯」に入浴。チェックアウト後、道後で最も格調高い旅館「ふなや」で山口晃の作品を見た後、正岡子規記念博物館に寄り、「かどや」で郷土料理さつまめしと南予風の鯛めし(玉子かけごはんに鯛刺しを入れただけのもので、料理と呼べる次元のものではない。うまいけど)を食べてから帰る。
・帰路は飛行機。往路7時間の距離を一瞬にして戻る。今回の旅、この緩急が良かった。
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