2018年06月07日

今さら「ライ麦畑でつかまえて」を読んで伊丹十三と再会した

Pop is dead. この歳にして、ようやくサリンジャーの「ライ麦畑でつかまえて」を読んだ。今まで読んだことがなかったのだ。だってそうでしょう、アメリカの片田舎で恋をする少年と少女の話、田舎道でデートをし、ライ麦畑の中で抱擁をかわす、二人だけの秘密。といったイナカ臭い、例えば「大草原の小さな家」や「赤毛のアン」みたいな小説だと思っていたのだから。
 しかし全然違ったのですね。そんな話では全くなかった。むしろ都会的であった。

 というかですねえ、ここまで読み急いだのは久しぶりですよ。出張中の列車の中で、まず仕事を片付けてそれから読み始めて、半時余りでかなり読み進め、出張から帰ってくるまでにあらかた読んでしまった。帰宅してすぐ読了。ページ数は結構あるんだけど、最後までくだけた口語調で訳も素晴らしいので、すぐに読めてしまう。

 そして読み終わった後で僕は「やはり『名作』と言われている作品には触れるべきだなあ」と再認識したわけですよ。
 例えばですねえ、オリジナルの「ゴジラ」って、まあこれは今見ると大して面白い作品ではないけれど、後世の漫画、アニメ作品に盛大にパクられているわけで、それらを見て「笑えるか笑えないか」ってことに徹底的に影響するわけですなあ。押井守の実写版パトレイバー「大怪獣 熱海にあらわる」で、熱海駅の改札から出てくる嶋田久作に爆笑できるか否か?これは「ゴジラ」を見たことがあるか?ってことにかかってる訳ですよ。
 あとはまあ、細野晴臣がYMO全盛期に見せた「天国の雲の上を歩く柳家金語楼のモノマネ」は、柳家金語楼を見たことがなきゃ笑えないでしょう。そういうものですよ、古いものや「名作」を知っておく、というのは。

 読み始めて、まずはそういう事にぶち当たった。だって数ページ読んだ時点で「あ、これ伊丹十三だ!」と感じてしまったのだから、いきなり元ネタ発見なのだ。野崎孝という人の訳だったが、これが1964年初版らしい。そして伊丹十三「ヨーロッパ退屈日記」出版が1965年だ。
 以降は推測だが、伊丹は翻訳書が出る前に「The catcher in the rye」を原書で読んでいて、人格形成上それなりに影響を受けていたのではないか。そして自著「ヨーロッパ退屈日記」出版に先んじて野崎孝の翻訳文を読み、文体的な影響については相当に受けたのではないか、と私は思う。
 つまり、それほどまでに主人公の考え、また言い草が「伊丹十三が著作上に『自分を表現』した場合のそれ(思考・文体)」に似ているのですね。
 最近、内田樹が伊丹十三を評して「ヨーロッパという立場から物を語ることによって、アメリカを低い位置に見たかったのではないか」的なことを書いてたのを読んで、なるほどなあと思ったこともあり、ここら辺にはふーむと思ったね。
 伊丹十三の評論眼や、それを表現するための文体は「アメリカ文学」であり、さらには「アメリカ文学の日本語訳」であるのだけど、彼の処女作は「ヨーロッパ退屈日記」である。こりゃ言うなれば「ヨーロッパ」の立場から「日本」を批評するような本なわけですよ。もっとヤヤコシク言うなれば「ヨーロッパに居る日本人俳優が、アメリカ人に憧れている日本人を揶揄するような本」と言っても良い。
(脱線するので伊丹十三の著作について詳しくは書かないが、ここに書いた「ヨーロッパ退屈日記」あたりはサリンジャーファンには大いに受け入れられるのではなかろうか)

 というような感じで、伊丹十三≒ホールデン(この小説の主人公)という感じになったのが、まず面白かった。そもそも伊丹十三が評論対象にならないからね、こういうバカみたいな当たり前の話でも、僕は知らなかったし、知ることで興奮した。というか、伊丹十三研究の重要な要素だと思う、ここは。
 蛇足だけれど、今回なぜこの本を読み始めたのはというと伊丹十三がエッセイにサリンジャーを引用していることを知った(というか今まで忘れてたんだ)からだ(この引用部分がまた良いんだ)
 それに伊丹映画「ミンボーの女」にもこの本が出てきたし、伊丹と「ライ麦〜」には何かあるんじゃないか?と思ったから。

 その他にも、私の乏しい読書経験からも、村上龍、庄司薫は「ライ麦畑でつかまえて」から影響を受けてるなあ、と分かった。後者はタイトルのつけ方くらいだけど、村上龍は相当影響を受けてるというか、表現法を流用してるなあ、と感じた。
 僕は村上龍の「イン・ザ・ミソスープ」や「ライン」が好きなんだけど、特に前者の冬の新宿を歩くシーンと「ライ麦〜」にはかなり共通点があるんじゃないか。較べたわけではないが、読んでいて「あれ、これ新宿の話?」という感覚になった。あと記憶違いかもしれないが村上「音楽の海岸」に「映画なんてものは、誰でも好きだ」という台詞があったと思う。これは「僕は、何がきらいって、映画ぐらいきらいなものはないんだ」という「ライ麦〜」冒頭の一文からだろう。どうも彼は、かなり惚れ込んでいるようだとすら思う。

 肝心の、この本の内容について。これについては僕の中で重要な事項は一点に絞られる。
 つまり「若者にありがちな、物事に対して一定しない批評眼」というようなもので、前述の映画の話にしても「きらい」と言っておきながらホールデンは日常的に映画館に足を運んでいる。友人を擁護するような事を言ったと思ったら、次の行から悪口の羅列になる、というような、全く安定感のない、身の回りに対する批判や、また愛情表現。このフワフワした感じと、境界の曖昧な二面性というのが、僕にとってのこの小説の「味わい」であった。
 また伊丹十三に話を戻すと、彼も身の回りというか日本人に対する悪口をエッセイに書きまくっているのだが、この小説を下敷きに考えてみるとこれは「しかし私もまたその日本人なのである」という、つまり一方では批判対象に愛情を抱いているというか、批判対象と自分自身が完全には分化できていないというような、彼のいわば憎悪愛みたいなものが「ヨーロッパ退屈日記」であり「女たちよ!」といったエッセイ群だったのだなあ、ということが今さらながらに理解できた気がするのだ。

 そんなわけで、久しぶりに非常に実りのある読書体験であった。こういう出会いがあるから読書は止められない。今さらこの歳になって、未読の名作を手に取る、というのは気恥ずかしいようなことではあるが、しかしやはりそこは手に取るべきなのだなあ、という事を思いましたよ。
posted by LSTY | Comment(0) | | このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーを含むはてなブックマーク

2018年03月27日

007は一度死ね

Pop is dead. 伊丹十三が1965年に指摘した誤訳が、2008年の版に至ってもまだ修正されていないのね。
 翻訳者というのは、実に中途半端な自尊心を持つものなのか。しかも43年ものあいだ!
 しかも「シャンペン」や「タタンジェ」とはどうですか。訳語もアップデートされてしかるべきで、テタンジェで良いではないですか。どうしても気に入らなければ、タッティンガーでも、ドンペリグノンでもよろしいが。
 パラパラめくると「海水パンツ」という文字が。スパイも遠くなりにけり、ということかねえ。
posted by LSTY | Comment(0) | | このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーを含むはてなブックマーク

2011年11月23日

最近の日記(新解さんの謎・天食・タキモトの世界)

Pop is dead.・赤瀬川原平「新解さんの謎」読了。
・久しぶりに声をあげて笑える、面白い本だった気がする。特に「動物園」な。ただ、悲しいかな私が持っている新明解国語辞典(第六版)では、動物園の項は変わってしまっている。その他の語句についても、用例が短縮されてる印象。
・ともあれ「新解さんの謎」は好著であった。イデオロギーだよね、真面目に考えれば、危険な辞書ですよ。飽くまでも異端として存在しているから笑っていられるけど、人格を持った辞書というのは怖いな、たしかに。
続きを読む
posted by LSTY | Comment(0) | TrackBack(0) | | このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーを含むはてなブックマーク

2008年09月16日

本棚写真(マンガ編)

 普通の本棚写真に続いて、マンガの本棚を撮ってみた。
続きを読む
posted by LSTY | Comment(5) | TrackBack(0) | | このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーを含むはてなブックマーク

2008年09月15日

本棚写真

FETISH STATION - 僕の本棚
 数ヶ月前に撮った写真をアップしておこう。
続きを読む
posted by LSTY | Comment(3) | TrackBack(0) | | このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーを含むはてなブックマーク

2008年06月25日

この名作の表紙をこの人に描いてもらいたい

Pop is dead.集英社「夏の一冊 ナツイチフェア」で、文豪の名作×人気漫画家がコラボ!
 二匹目のどじょうとは言いながら、出版社もいろいろ考えるなあ、などと思ったわけだけど、僕は「今時の漫画」を読まないので、僕なりに「この名作の表紙をこの漫画家に描いて欲しい」というのを挙げてみる(一部漫画家じゃ無い人もいる)
続きを読む
posted by LSTY | Comment(0) | TrackBack(0) | | このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーを含むはてなブックマーク

2008年06月19日

なごむための本

はてなブックマーク - 和む漫画教えて:VIPPERな俺
 若いもんは何かというと漫画漫画でいかん。と思うので漫画じゃないのも混ぜて書く。
ぼくの伯父さんの東京案内僕とポークしかもフタが無い
続きを読む
posted by LSTY | Comment(0) | TrackBack(0) | | このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーを含むはてなブックマーク

2008年02月12日

新古今和歌集を拾い読みした

Pop is dead.・5日あまりオフラインで過ごす。
・その間、以前買ってそのままだった対訳付きの新古今和歌集を拾い読みする。
・その結果、私は「和歌が分からない人間」だということがよく分かった。
続きを読む
posted by LSTY | Comment(5) | TrackBack(0) | | このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーを含むはてなブックマーク

2008年01月08日

若桑みどり「イメージを読む」を読んだ。

イメージを読む (ちくま学芸文庫) 年末年始に酒を飲みながら読んだ。副題は「美術史入門」となっているが、図像学の入門書として良い著作だと思う。わかりやすいし、興味深い。
続きを読む
posted by LSTY | Comment(0) | TrackBack(0) | | このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーを含むはてなブックマーク

2007年03月07日

丸尾末広この3冊

新ナショナルキッド夢のQ-SAKU犬神博士
・丸尾末広「パラノイア・スター」が書棚に見あたらず、軽くあせる。
・しかし調べてみると「電気蟻」も「日本人の惑星」も「新・ナショナルキッド」に所収されている模様。
・結局見つかったから良かったけど「日本人の惑星」は丸尾作品中、最も危険なものだと思う。これが入手できなくなると辛い。
・単行本一冊読んでみて最も平均点が高いのは「夢のQ-SAKU」。「少女椿」や「DDT」に比べると名前は売れていないけれど、個人的には丸尾末広の代表作だと思う。
・読みやすい、かっこいいという視点では「犬神博士」。陰陽道系の話なので、そっち方面が好きな人にも良いんじゃないでしょうか。あと他作品に比べてエログロ表現が抑えられているので初心者には読みやすいと思います。
posted by LSTY | Comment(3) | TrackBack(0) | | このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーを含むはてなブックマーク

2006年05月19日

ブンガクなブロガー

Pop is dead. 唐突ですが、僕の好きな「ブンガクなブログ・ブログ記事」を3つ挙げたいと思います。
 ブログ界に存在する良い文章です。この場合の「良い文章」とは、読みやすいとかそういう貧乏くさい事じゃなくて、言葉が気持ちいいとかそういうことです。
続きを読む
posted by LSTY | Comment(11) | TrackBack(0) | | このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーを含むはてなブックマーク

2005年06月24日

漫画バトン、略してマトン

DOB_devil(byTakashiMurakami)回ってきたのでやってみる。

■今ある漫画の冊数
・100冊はないと思う

■今1番読んでいる漫画
□ 山根あおおに「名探偵カゲマン
・ノスタルジー。「最後に買った漫画」も同じ。

■よく読み返す、または特別な思い入れのある5冊
□ つげ義春「赤い花」
□ 水木しげる「幽霊艦長」
□ 丸尾末広「ナショナル・キッド」
□ 内田春菊「24000回の肘鉄
□ 町野変丸「ヌルえもん」

続きを読む
posted by LSTY | Comment(4) | TrackBack(0) | | このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーを含むはてなブックマーク

2005年06月23日

Baton of Novelってのもある。

DOB_devil(byTakashiMurakami) リアル知人であるSの自乗さんからバトンを頂きました。mixi内で。
 mixiの中でやってもつまらないので、ここに書いておきます。
続きを読む
posted by LSTY | Comment(0) | TrackBack(0) | | このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーを含むはてなブックマーク

2005年06月21日

本屋の歩き方、、、やっぱりおかしい。

DOB_devil(byTakashiMurakami) とあるブログへのコメントで、「僕が本屋さんに入った時、どういう順番に本をチェックするか」を書いてみた。
 やっぱり、自分が筋金入りのアレである事が再確認できました。

続きを読む
posted by LSTY | Comment(2) | TrackBack(0) | | このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーを含むはてなブックマーク

2005年06月20日

ついに「カゲマン」を買いました



 随分長い間カートに入れっぱなしになっていた「名探偵カゲマン」を購入。
 キャラクターデザインに、赤塚不二男の影響が濃く出ている。昼休み、なんとか怪人19面相登場の回まで読みました。
 もっとつまらないかと危惧していましたが、まあまあ「思い出を壊さない程度」には面白い。

 さて、あまり関係ないのですが、私は電車で漫画を読んでいる大人が嫌いです。
 バカっぽく見えるから、というのもあるんでしょうが、漫画って隣の人がちらっと見ただけで大体何を読んでいるのがわかる。そういうものを無防備に晒している人間が嫌いなのだと思います。
posted by LSTY | Comment(4) | TrackBack(0) | | このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーを含むはてなブックマーク