・京都市街を抜け、鞍馬山からさらに40分ほど山奥へ。公式な案内では「京都市街から車で1時間」とあるが、中心部から1時間では少し厳しいかも。
・通された部屋は離れの「山椒」という小さい部屋。無駄がなく小綺麗で、たしかに泊まりたくなる部屋だ。窓の外には床というのか縁台というのか、木製のベランダがあって、ここに絶えず虫が遊びに来る。はんみょうや、平地では見ない様な形の蟻・虻などが居る。そのすぐ下には川が流れており、魚が泳いでいる。舞台装置は完璧。
・前菜とともにお酒が運ばれてくる。一合は無いと思うが、五勺ってことはないだろう、七勺くらいか。
・前菜は、玉子の黄身味噌漬け・あかざのお浸し・赤万願寺にすっぽんの煮こごり・茗荷寿司(茗荷の中に里芋)・おくらの中に金山寺・川海老の揚げ物・こんにゃくの栃の実揚げ・あまご山椒煮。すっぽん、茗荷、こんにゃく揚げが秀逸。川海老も、あれは海老自体が良いのか揚げ方が良いのかよく分からないが、ちゃんと身の食感がある。
・次に白味噌の汁物。中に万願寺唐辛子の団子(細かく切って、葛のような物でまとめてある)が入っている。甘い白味噌の中に辛い団子、酒飲みにとって白味噌というのはどうも不細工な物に思えてしまうが、ここに青唐辛子の団子が入ると酒の友になる。なるほど、こう化けるかと思う。
・刺身は鯉の洗い。当然うまい。梅肉と山葵・醤油が添えられるが、鯉に山葵は合わないので梅肉で、がうまい。醤油ではなくてポン酢が添えられてる方が好みだったかも。
・次に鮎寿司。これは特にうまいというわけでもないが、ご飯と魚の間に山椒の葉がはさんであり、口に入れてしばらく咬んでいると、忘れた頃にふわっと香る。この時差攻撃に感心してしまった。
・箸休め的に漬け物。とうもろこし・れんこん・へちまの味噌漬け。とうもろこしが驚くほど甘い。いわく、味噌の塩で甘さが引き立つということだったが、ここまで甘いとうもろこしは初めて。それと比べると、へちまはぼやっとしていてイマイチ。
・それから鰻と川海苔豆腐の吸い物。やっぱり出汁が素晴らしい。
・そして鮎の塩焼き。小さめの鮎が二尾。これがフワフワのトロトロなのだ。フワフワは分かるとして、なんでトロトロなんだろう。内臓かあるいは脂の加減か、あんな鮎は食べたことがない。鮎というのは総じて苔臭い物であって、あれが鮎の香りなのだと思っていたが、ここの鮎にはそういう臭いもない。くせがなく、しかしちゃんとうまい。塩加減も丁度良い。この鮎の選び方・焼き方は美山荘の御家芸なのだろう。素晴らしかった。
・最後に炊き合わせ。鴨・賀茂茄子・太胡瓜。これはイマイチ。賀茂茄子に種が多すぎるのと、終盤の料理にしては少し多すぎで、盛り方も荒い気がした。あと、この店は正調の日本料理を出す店だと思っていたが、この料理だけ「ジュレ」なるものがかかっていて興をそぐ。近頃和食でもやたらに「ジュレ」かけるね。そういう風潮は好きになれない。そんなこんなでマイナス。ただ鴨はうまい。
・ご飯は鮎御飯。これも少し難あり。ちょっと生臭い。食べられないほどではないが。
・デザートはマスカルポーネチーズのアイスクリームにメロンのすり流し。うーん、お腹いっぱいだけどこれはうまい。メロンのすり流しと来たか。甘いのとしつこいのの取り合わせのようでいて、しかし食べられてしまう。
・と、完食したつもりでいると、かなり大きめのよもぎ餅と抹茶が来た。これはちょっと厳しかったが、なんとか完食。
・炊き合わせと鮎御飯で少し減点があったが、それ以外は完璧。さすがプロが薦める料理屋。私が自腹で食べた料理の中では、間違いなく最高位。親のおごりで食べた金沢「和田屋」に並ぶ、一流の料理でした。
・嫁も気に入っていたので、次は是非、泊まりに来たい。
・口コミ情報を見ると「客を試すような宿」とか書いてあって、それを見て今回、泊まりは見送ったのだが、しかし実際にはそういう雰囲気は全くなかった。京都とは言え、市街から離れた田舎の宿だからか、妙な気取りは全くない。しかし接客はちゃんとしている。所作、言葉遣いなどきっちりしていて、さすがサービス料15%取るだけのことはある。納得できる。
・あ、ちなみに私が食べたのは15,000円の料理でした。お酒は追加しなかったので、これにサービス料と税金で18,000円程度。まあ、良い値段ではあるけど、それ相応の料理と言えるでしょう。
・で、この日の泊まりはエクシブ京都八瀬離宮。比叡山の麓にあるリゾートホテル。
・食事前にケーブルカーとロープウェイで比叡山山頂まで行ってみる。ケーブルカーがすごい。9分で高低差560メートルを登る。しかもまっすぐじゃなくて曲がって進むケーブルカー。山頂に植物園みたいなのがあって、そこに入った途端に雨。早々に退散する。
・夜はイタリア料理で軽く済ます。料理は悪くないが、スクリューキャップのワインが1本7,000円ってどうよ。
・翌朝、ホテルの朝食はイマイチ。バイキングで、和・洋は良いとして中華まであった。それは良いとして京都のホテルなのに和食のラインアップが貧弱。スクランブルドエッグのトマトソースが少し変わった味でおいしかったくらいか。ソーセージ6本とポテトサラダの大盛り二山で御飯を食べている子供が居た。
・琵琶湖大橋を渡って、佐川美術館へ。目当ては茶室見学。見学案内してくれる学芸員みたいな人が妙に気取った感じで鼻についたが、しかし面白い茶室だった(腰掛待合の丸い吹き抜けが人工的で良くなかったが)
・一緒の組にいた婆さんがいきなり「総工費はいくらなんですか?」と訊いていて引く。
・赤い茶碗なんて良くないと思っていたが、あの薄暗い光の中で見ると、赤も良い。当代の楽茶碗の中には、モダンに振りすぎているような物もあったが、しかし総じて、さすがに良い。
・茶室見て、楽茶碗見て、それ以外に変な物を見たくないと思い、他に何も見ずに帰る(もっとも平山郁夫なんてハナから見る気ないのだが)
・さてこの美術館、茶碗の展示方法に大きな欠点がある。ガラスから茶碗までの距離がありすぎるのと、致命的なのは茶碗の中が覗けない。
・例えば東京の根津美術館では、茶碗は比較的低い展示棚に、若干ななめに置かれていたと思う。つまり、茶碗というのは手で持って初めて価値の分かる物であって、それに近い視点で見られない展示は良くない。