■7/4(金)
・松竹大歌舞伎巡業公演 東コース@府中芸術の森劇場に行ってきた。今回は歌舞伎の地方巡業公演を見るために東京に行くという、本末転倒というかそういう旅なのだ。普通ならそんな馬鹿なことはしない物だけれど、中村米吉を見るためだけにそういう馬鹿な試みをしてみた。
・幸い「双蝶々・角力場」も「吃又」も、有名な演目だが未見であり、良い機会ではあった。
・さて、府中と言えば東京都内だが、客は見事に「田舎のおばちゃん」であって、歌舞伎座なんかとはあきらかに違う。新宿から電車で30分で、こんなに田舎臭くなるものかと感心してしまった。
・「角力場」は中村吉右衛門演じる「おすもうさん」(濡髪長五郎)のスーパーマンっぷりを見せる芝居で、SFXが興味深かった。肉布団を着て、高い下駄を履いて、座る時にはお尻の下に「上げ底」をして、座高を高く見せる。これはもともと文楽(人形浄瑠璃)の芝居なんだろうね。文楽だとスーパーマンを表現する時、単純に「普通よりも大きいサイズの人形」を使う。「夏祭浪花鑑」の団七なんか、大きい人形で出てくるから観客も「あ、この人はスーパーマンなんだな」とすぐに分かる。それが、生身の人間を使った歌舞伎だといろいろ工夫が必要になって大変なんだなあ、吉右衛門暑そうだなあ、と感心した。さらに、手袋もしているようだったが、あれはどういうわけなんだろう。
・米吉(芸者吾妻)は大事な役なんだけど冒頭にチョイと出るだけ。それこそ「夏祭」に出てきた時と同じような役柄だけど「夏祭」には嫌いな客にヒジテツ食らわせるような場面があって良かった。ああいう可愛い子のヒジテツ食らいたいなあ、と思える見せ場だった。「角力場」での出番は飽くまでもサラッとしており、あっという間に舞台からはけてしまった。
・おすもうさんの贔屓筋である若旦那を演じるのが中村種之助。これが良い。いかにも線の細い、若旦那らしいナヨナヨっとした動作、にじみ出る上品さや人の良さが素晴らしい空気を出している。小柄なのも、スーパーマンである長五郎とよく対比する。これは当たり役だなあ。先々月は明治座で弁慶をやっていたが、それこそ小柄なので弁慶はおかしい。この人にはこういう役が似合う。もっと言えば女形でも良いと思うのだが、種之助はブタ鼻(失敬)なので、女形はちょっとつらいのかも知れない。しかし彌十郎の息子に比べればずっと女形特性が高いと思うが。
・吉右衛門は酸いも甘いもかみ分けた世渡り上手のおすもうさんであって、それに対比して若くて真面目な、悪く言えば「青い」おすもうさんを演じるのが中村歌昇。ただ若いだけで押し切れるような役なので、これはこれで良かったと思う。清潔感のあるおすもうさんでした。
・最後、吉右衛門が力を誇示するために茶碗を握りつぶす。歌舞伎のこういう演出も子供っぽくて好き。
・口上、米吉は眉毛を落とした女形のこしらえで列座。これがエロい。可愛いだけでなく、こういう妖艶さも出てきたか。これまでのただ可愛いだけの女形ではなく、これから芸の幅がどんどん広くなってゆくんだろう。しかし一方で「可愛い米吉」のピークは今年くらいか、あるいはもう終わっているのかも知れないと感じる。ちなみに僕の中でのベストは、米吉を初めて見た2012年11月の明治座であった。あまりに可愛いので二回も見に行って、人生で初めて舞台写真を買ってしまったほどだ。
・「吃又(傾城反魂香・土佐将監閑居の場)」は辛気くさい芝居。襲名披露興行でなんでこんな景気の悪い話やるんだろうなあ、と思う。だいたい巡業公演でやるような芝居じゃないよ、これは。
・吃音の障害を持つ絵師が、師匠からも冷遇され、障害を苦に世をはかなんで死のうとするが、死ぬ前に描いた絵が素晴らしくて師匠から認められる、という話。主人公の吃りがキーになる芝居なんだけど、田舎の会場でやると笑いが出る。悲劇の象徴である吃音が、田舎の客相手ではコメディーになってしまう。だからこれは、普段から芝居を見ている客向けの作品なんだけど、なんでそれを巡業でやるか。
・又五郎は正直うまいとは思えないが一生懸命さは伝わる。なんとなく、歌舞伎的な、若干過剰な悲劇の演出ではなく、リアリズムに振りすぎているのかなあ、という印象は受けた。ところでこの人って、肩の力を抜いた軽い役が向いているように思うんだけど、又五郎を襲名してからはかなり力の入った役どころばかりしている印象があって、ハタ目にもきつそうだ。
・終盤、芝雀のおしろいが落ちて着物の襟が真っ白に汚れているのがどうも不潔だった。最後、又五郎と芝雀の夫婦の情みたいなものは、それなりにうまく描けていたと思うが、悲劇の部分が中途半端だったので、最後のハッピーエンドが際立たない感じはする。
・子供の頃から、吃又の「絵が石を抜けて浮かび上がるSFX」を一度見たいと思っていて、それが見られたので良かった。
・終演後、府中の「縄文の湯」というスーパー銭湯へ行って、久しぶりにしっかりと体を洗う。汗をかいて、天ぷら近藤での一杯目のビールに備えようと思ったが、風呂から上がると汗ダラダラ、というか汗で額ビショビショ、耐えられずにペットボトルの水を購入。
■7/4(土)
・歌舞伎座にて5月分の舞台写真(中村米吉2枚)を購入。ついでにハンカチを購入
・しゃれも含めて原宿の生写真屋を覗く。竹下通り入って左側の生写真屋はなくなったのか。別の地下の店に入るが、予想通り女性アイドルではAKB48系がほとんど。驚いたのはハロプロ系がなく、松田聖子が未だに一コーナー作ってること。あと浜アあゆみは根強くあるね。
・夕方は浅草・花やしき裏の青テントにて劇団・唐ゼミの公演「木馬の鼻」すごい立地で、すぐハス向かいは「紳士の社交場」浅草24会館、すぐ近くに「ふんどし専門」のスナックがある。
・客の中にも「24会館に通っている時に青テントが目に入って、興味があるので見に来た」という感じの男性がいた。
・唐十郎が大学の講師をしていた時の生徒が立ち上げた劇団らしい。脚本は唐十郎。
・本は悪いとは思わなかったが(良くも悪くもアングラっぽい臭いのする内容)演出が上滑りというか、ただ本をなぞっているだけでアングラ芝居として成立していない。役者の「ミエ」も決まっていないし、ただなんとなく流れてゆくだけで「客の心に何か引っかけてやろう」という演出の意志が感じられない。
・途中で演出としてスマートフォンが出てくる。役者がスマートフォンで今現在撮影している映像を、舞台上のスクリーンに投映するという、少々つまらない演出なのだが、ここで役者は舞台上の風景ばかりを映す。ここで観客を映してなんぼだろう。客席で舞台を見ている観客の映像が舞台上に投映される、ということをなんでしないのか。もったいない。
・ラストシーンは、これまたいかにもテント芝居らしいやや陳腐な演出なのだけど、これも観客の視点を理解していない動きで、ヤレヤレと思う(下手に座っている客からはほとんど見えない)
・役者にはあまり文句はなかった。特にグンマという役を演じた女の子は良かった。あとは主役の男の子と、その姉を演じた女の子はそれなりにうまかったように感じる。
・ただ演出に難がありすぎる。前提条件として「客がゴザに座って見る」というのがあって、これだと確かに中に休憩を挟んで前半後半40分ずつ、というのが観客のお尻にとっての限界。その時間で芝居を一本となるとかなり早足にならざるを得ない、というのも確かに分かるのだが、あそこまで軽く流されてしまうとどうも物足りない。
・試みとしては面白いし、機会があればまた見てみたい劇団だが、今回は不満足。まあ、こういう若手の劇団というのは「存在することに意義がある」みたいな部分もあるだろうし、今後に期待という陳腐な言葉で締めくくっておこう。
・夜は偶然東京に来ていたさいとうももさんとバーを2軒ほど回る。Twitterで「spirit of gaudi 万年筆」と検索すると、さいとうさんと私のtweetだけがヒットする、そこに縁を感じていたのだった。