・地元の老舗洋食屋で昼を食べてから大阪に向かう。心斎橋スタンダードブックストアで本を物色し、地下の喫茶スペースでツナサンド。付け合わせのポテトチップスが厚っぷりで良い。
・国立文楽劇場「女殺油地獄」を見る。逮夜の段は歌舞伎では見たことがないが、中村米吉のこのブログ記事(2014年こんぴら歌舞伎)によると、歌舞伎では全くやらないという訳ではないようだ。
・しかし「女殺」は、歌舞伎の方がやっぱり面白いな。人形が舞台を滑りまくるのは文楽独特の演出だけど、歌舞伎の「女殺」のリアリズムに振った演出の方が、見ていて面白い。
■7/20
・八日市・招福楼へ。JRの近江八幡という駅から近江鉄道とかいう電車に乗り換え、20分くらいか。駅を降りて右側に散髪屋があり、その横にうっそうとした森がある。「神社か?」と思うがそこが招福楼なのだった。玄関に至るまでの砂利道はかなり神社っぽい。「とんでもねえ店に来ちゃったな」という雰囲気
・記憶を頼りに食べた物を列記すると、鮑ときくらげの酢の物?あこうと湯葉の腕物、すずき・いか・車海老の造り、冷麦、鮎塩焼、鱧の椀物、近江牛のたたき的な物、とうもろこしの天ぷら、ご飯、じゅんさいの赤だし、超・水羊羹、抹茶、桃、シャーベット。こんな物だったと思う。
・だいたいこんなものだったか。これくらい高い店だと、お土産としても手書きのメニューが欲しい物だが、それは無し。で、料理が来てもあんまり説明してくれない。
・料理はさすが。昨年、京都の美山荘で食べた料理と匹敵するちゃんとした日本料理。出汁ばきばき。料理の温度管理も、過剰とも言えるこだわり。鮎の塩焼きは二尾出るのだけど、一尾出して食べ終わると、もう一枚暖かい皿が出てきて二尾目を乗せる。なんだこのこだわりは。
・「美山荘と匹敵する」と書いたが、母親は「美山荘より招福楼の方が格段に良い」と言っていた。曰く「美山荘は値段のわりに大したこと無い」とのことだった。
・美山荘で、私は15,000円くらいの昼を食べただけだったが、母は宿泊したらしい。泊まると5〜6万、たしかに泊まると割高感が目立つだろうと思う。
・招福楼で特に印象的だったのは器で、茶器をイメージした物や茶器その物を流用したような食器が多い。例えば冷麦は氷をくり抜いた器に入ってくるのだが、中の冷麦を食べた後、氷の器を布でくるんでくれる。これを両手で持って、中の出汁を飲んでください、という趣向なのだけれど、これなどはお茶を飲む形にかけたシャレだろう。氷の形もある種の茶器に似ていた。
・日本料理の店で「牛肉のたたき」など出てくるのは気に入らなかった。鴨、鹿、猪、熊あるいは兎なら良いが、牛や豚が正式な日本料理店で出てくると、どうも残念な気持ちになってしまう。こっちはそういう物が食べたくて来てるわけじゃない、と思うわけだ。
・しかし、牛肉のたたきが盛られた器が面白い。「なまず」をかたどった怪しげな皿である。初代・須田菁華という人の作らしく、魯山人はこの人の作品を見て作陶を始めたと言うから、大した人による大した器なのだった。須田菁華作の器は他にも出てきて、そういう物を特に誇らしく説明するでもなく、普通に使っているところがすごい。
・食後に出てきたお菓子、正式名は分からないが「超・水羊羹」と書いた。見た目はくず餅。食べてみると水羊羹のような食感だが、口の中であっという間に溶ける。黒豆を使った菓子らしいが、食べてみると「超・水羊羹」という感じなのです。
・で、抹茶が出るのだが、その後に果物・シャーベットが出るのが私にとっては付けたり。美山荘でもデザート二段構えメニューだったが、お腹いっぱいの所に甘味が二品出てくるのは酒飲みに対しては嫌がらせだ。
・全体的に大した料理だったが「前菜盛り合わせ」的な皿がないのが寂しい。あと冷房効きすぎ、部屋が薄暗すぎて雰囲気は良いが料理が若干見えにくい、最初に出てきたおしぼりに陰干し臭がしたこと、不満はこれくらいか。こういう料理を季節毎、とは言えないが半年に1回、いや年に1回くらいは食べたいなあ、と思える料理だった。
■7/21
・京都駅で少し時間があったため、伊勢丹11階の「京都和久傳」へ。昼のコース6,000円からというすごい値段の店だが、客は満員。何考えてるんだろうね。
・食べた物は6,000円のコース。蛸の造り、蓮根饅頭と湯葉の椀物、鮎の炭焼、鱧しんじょう、冬瓜とずいきの吉野煮、鯛の黒寿司、蓮根餅
・この値段なのに鱧の姿を拝むことは出来ず「鱧しんじょう」ってどうよ。その他にも椀物の盛り方が「田舎の方向けに、具材をたっぷり盛りつけました」という雰囲気で、スマートさが全くない。鮎は栄養失調で骨と皮。出汁の味も弱く、招福楼とは全く比較にならず。
・バカ高い「青竹酒」というのを頼んでみた。1合1,500円くらいだったかな。これ、うまくも何ともない。菊正宗の方がずっとうまい。その名の通り、竹に入って出てくるのだが、竹の香りもしない。なんだこれあ!しかし、竹は立派なのを使ってる。注ぎ口の穴の大きさ、切れ込みの的確さは秀逸。そして竹に入っているので冷たい温度が保たれる。ここら辺は、この店の知見の集積なのだろうと思う。竹代1,000円、酒代500円くらいで納得しておこう。
・僕が「うーん、京都駅の11階でこの眺めであれば、6,000円、こんな物かなあ」と言うと、嫁が「4,000円」と辛い値踏み。俺のおごりなのに!しかし確かに、料理のレベルとしては4,000円が妥当かも知れない。