2014年10月14日

10月演舞場(俊寛・金幣猿島郡)、歌舞伎座(鰯賣戀曳網)感想

Pop is dead.
Pop is dead.■10/10
・名古屋駅1・2番線の立ち食いきしめん屋で海老天玉きしめん。この店は注文を取ってから天ぷらを揚げるので時間がかかり、さらに熱いので早く食べられない。駅の立ち食い店としてどうなのかと思う。新幹線ホームのきしめん屋より、この在来線の店の方がうまい、というのが通説になっているようだが、どうもよく分からない。
・東京に着いてBigHornで飲み、午前1時頃帰る。

■10/11
・今回は新しい靴(クラークスのデザートブーツ)を履いてきたので、東京を散歩する気にはならず。なるべく歩き回らないのがこの旅のコンセプトである。
・という訳で、当初は見る予定ではなかった新橋演舞場・昼の部へ。数日前に空席を確認したら、1階前から2列目中央の席が見つかったのだ。昼は米吉が結構良い役で出るので、まあ行ってみようかと。右近の俊寛なんて見る気にもならないが。
・歌舞伎座で切符を発行し、売店で先月の舞台写真を買う。当然のように中村米吉全部買い。松屋の地下で米八の弁当を買う。僕は酒飲みなのに赤飯が好きで、赤飯弁当があると買ってしまう。

・で、演舞場へ。10分ほど歩いただけで早くも足が痛い。演舞場の入り口は扉一つしか開けないので大渋滞が発生する。あれ、どうにかならないのか?
・芝居の方だが、良いわけないと思っていた俊寛が、これが結構良かった。右近はまだ若くて脂ぎった感じがするので、ヨボヨボした俊寛は合わないだろうと思っていたのだけど、脂ぎっているが故に「もう一度都に戻って一旗揚げたい」という執着心が出ている。Wikipediaを見ると、当時の俊寛は30代半ばということになる(劇中の「島に流されて3年目」というのが史実とは合わないが、島流しになったのが恐らく1177年=俊寛34歳で、没年が36歳。だから30代半ばと言うことで良かろう)吉右衛門の俊寛なんかを見慣れているから気付かなかったが、まだまだ野心は衰えていなかったのではないか。都に残した妻への思いを口にするあたりもそうだ。
・右近の俊寛を見ていなければ、僕の中での俊寛像は「島に取り残されたかわいそうなお爺ちゃん」のままだった。これは見ておいて良かった。

・笑也の千鳥が前半良い。おおらかで可愛らしくて喜界が島における、たった一つの楽しみ、安らぎであるといった空気が出ている。人形振りっぽい動きもあったが、それも可愛い。思えばロマンポルノの海女物も、その源流をたどれば千鳥に行き着くのかも知れない。田舎に住む、素朴で素直な女の良さ。
・しかし後半、恋人と引き離された時の「悲劇のヒロイン」ぶりが出ないんですね、この千鳥では。全然悲しそうに見えない。もっと工夫が必要だと思う。
・男女蔵、うまくはないが板に付いてるというか、安定感がある。良い。私の母親はこの人を嫌っていて「男女蔵はヘタよねえ」と言うが、昔の左團次に比べればヘタでも無いように思う。この人は顔が良いし、出てくると舞台が落ち着いて歌舞伎の空間になる。決して悪い役者ではないと私は思う。
・あと猿弥の瀬尾が最高。ザッツ赤面、典型的な歌舞伎の悪役。今月の演舞場は昼夜見て、猿弥がMVP。猿弥にはこういう「動く役」をやらせないとな。2年前の天竺徳兵衛「木曽官の霊」なんて、あんな役をやらせてる場合じゃない。良い役者なんだから、もっと活かさないと。
・正直、幕切れの感動はなかったが、しかし全体を通してなかなか結構な「俊寛」でした。

・で次の「金幣猿島郡(きんのざいさるしまだいり)」これは米吉の七稜姫目当て。結論から言うと米吉がほぼ出ずっぱりで、しかも着物が赤・薄桃・薄浅黄と3種類コスプレでどんどん可愛くなっていくので堪らない。しかもこの女、とんでもねえ小悪魔で、男に「助けてくれたら私の大事な物ア・ゲ・ル」とか言っておきながらその約束を反故にして別の美男子とくっついたり、家来の女と男を取り合って、最終的にその家来の女の首を自分の身代わりにするとか、なんかもう、アレなお姫様なのです。
・で、こういう悪女を玉三郎なんかがやるとそれはそれで凄みがあるんだろうとか思うんだけど、米吉がやるわけです、こういう役を。垂れ目で下ぶくれで可愛いお姫様が、実は小悪魔であるという、ここにぞっとするようなリアリズムがある。中村米吉ファンとして、ここにゾクゾク来た。こういうカマトトぶった可愛い女の子ほど残酷で、男の事なんて何とも思っていないという、これは凄いな。そこまで考えての配役かどうかは分からないけど、個人的にはそこに感動した。

・猿之助だけど、前半の清姫が良くない。この人はアダっぽい女がうまいけど、こういうしおらしい役にはどうも向かない気がする。その代わり、目が開いて嫉妬に狂うあたりからは、まあまあ良くなる。
・それより忠文が良かったな。七稜姫に騙され、嫉妬で鬼になるかわいそうな男。嫉妬で鬼になる女というモチーフはよく見る気がするけど、男だとまた違った悲壮感がある。ここでも忠文の嫉妬心をあおる猿弥がいやらしくて良い。
・長刀で戦う歌六が良い。前半は普通の忠義な家来という雰囲気で面白くなかったんだけど、武闘派の表情を見せた途端に迫力が違ってくる。歌六はこういうクセのある老女をやらせると良いな。八汐も良かったしなあ。
・最終幕は踊りがメイン。猿之助は踊りがやりたいんだろうね。楽しそうと言うか「ああ、この人は踊りがやりたいんだなあ」と感じた。

・終演して秋葉原・体育倉庫いってまた東銀座へ。

・歌舞伎座・夜の部、勘九郎の「鰯賣戀曳網(いわしうりこいのひきあみ)」の幕見に並ぶ。
・この芝居は見たことなくて、三島歌舞伎ということもあって見ておこうと思ったのだ。見てみて、面白い本だ思った。いろんな所にサカサマにの要素がある。貧しい人間が高貴な身分を詐称するのは「やつし」の逆さま、侍だと振られて鰯売りだとモテる逆さま、鰯売りの「家督を譲る」というのも身分制度の逆さま、女が男をリードする逆さま、鰯売りの売り声を和歌で解釈する貴賤の転換とか、趣向として面白い。
・で、誰か指摘してるんだろうけどこの鰯売りは、三島由紀夫にとっての「汚穢屋」なんだろうね。高貴なお姫様が卑しい鰯売りに恋をするというのは、「仮面の告白」において金持ちのおぼっちゃん(三島)が汚穢屋に性的な魅力を感じたのと重なる。だからボテ振りじゃないといけないわけだ。

・で、肝心の芝居なんだけど、正直いまいちだった。勘九郎の猿源氏は全然ダメ。一生懸命やってるんだけど、お父さんのような「天性のエンターテイナー」というオーラがないので「一生懸命」にとどまっている。真面目で正直な男の可愛さなんかは出てるんだろうけど、だったら演出を変えないと。お父さんと同じ演出でやってしまうと、ダメだなあ、という印象が勝つ。
・七之助もそれに遠慮しているのか、どうも良くない。ただ幕切れ、夫婦で鰯の売り声をかける所はとても感動的だった。あそこだけは良かったな。
・彌十郎が全然良くない。手ェ抜いてるのかな、この人が勘九郎をフォローしないといけないのに、ただ居るだけの役で、笑いに寄与していない。その点、獅童はそれなりに良かったと思う。

・終わって門前仲町のてんやでビールセット、舞茸・帆立追加、しめに小うどん。会計1,000円ぴったり。バカみたいに廉い。
・帆立はハズレだった。舞茸はいつも通りうまい。てんや行ったら舞茸は必須
・BigHornで軽く飲んで買える。
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