2016年05月24日

ハイバイ「おとこたち」を見た感想

Pop is dead.
Pop is dead.・ハイバイという劇団の「おとこたち」という芝居を見た。
・あらすじについてはここのブログに詳しい→「おとこたち」を見る: 芝居遊歴控
・4人の「おとこたち」の青年期から老年期までを描いた話。コメディーかと思うと結構シリアスな話だった。山田(狂言回しの男)、津川(アル中の男)、鈴木(計画的な男)、森田(不倫する男)という四人

・最初の方は軽くコメディータッチで話が進行する。個人的にはハイキングでの焚き火が馬鹿馬鹿しくて好きだった。津川が酒のせいで失職し新興宗教に入り早世する部分なんかもコメディの範囲内だが、森田の不倫問題で結構ピリピリした演技が展開され、終盤は鈴木の家庭内暴力問題で完全にシリアスになる。

・見ていてそれなりに面白い芝居ではあるんだけど、人間の一生を描くドラマとして見ると物足りない。意に添わない仕事でストレスを抱える男、事故に遭ってスピリチュアルに目覚めてしまう男、自分自身は出世をするが家庭に問題を抱える男、不倫をして妻と愛人の両方から見放される男。それぞれ「いかにも居そう」でステロタイプというか単純化、類型化された人間像になってしまって嘘臭いというか面白くないというか。
・終盤、鈴木の葬儀の場面ではある種のどんでん返しみたいな物があるけれど、衝撃を感じない。鈴木という人間に対する思い入れが強くないと、ここでショックは受けないだろう。人物の描き方が類型的で、つまり「漫画的に誇張された人物」なので、彼に対する思い入れが強くならないのだ。どちらかというと悪役として描かれてるしね。
・あと、老人になった男たちの演技、体の動きが良くない。全く老人に見えない。「コントの中の老人」にしか見えない。そこは敢えてリアルに振っていないのかも知れないけど、ここがリアルでなければ悲壮感は出ない。喜劇で終わらせるのならともかく、悲劇として成立させるには現行の演出では不足だろう。

・現代劇っていうのは、特に「いわゆる商業演劇っぽいもの」ではない、今回のこの芝居のような現代演劇って、見終わった後に「何で彼はあの時あのような言動をとったのか」とか「なんでああいう演出にしたのか」とか考え続けるような物だと理解してるんだけど、この芝居は終演と共に「ハイ、終わりました」と終わってしまう。劇中人物(特に男たち)がステロタイプなキャラクターで、その言動も想像の範囲内なので、最終的に全ての話が「ハイ、終わり」と収束してしまうように見える。

・個人的には不倫する男、森田の演技が良かった。この人は老人の演技もそれなりで、ちょっと小津映画みたいな台詞回しも取り入れていた。さらにその妻と愛人、二人の女優の演技は更に良かった。特に妻のすごみは、あれは大したものだ。男の俳優陣と比べて、演技力では女優陣が傑出していたと感じる。愚かな男たちの人生を俯瞰する女たち、というような芝居なのかも知れない。
・僕にとって唯一現代劇的な登場人物=不可解な行動に出た登場人物は不倫する男の愛人であったけれど、なぜ彼女があんな行動に出たのかは男には理解できないだろう。

・ただまあ、よくよく考えると、リーズナブルというかちょうど良い軽さと重さの芝居なんじゃないですかね。だいたい現代劇っていうのは一回見て終わりの物だと思うし、初見で「ハイ終わり」とはっきりと終わる方が気持ちは良い。いわゆる「考えさせられる芝居」っていうのは、見た後に悶々となるし、更に言えば平田オリザの芝居なんて、情報量が多すぎて一度見たくらいでは考えることすら出来ない。最低3回は見ないとスッキリしないと思うんだけど、クソ田舎に住んでるとそういう事は出来ないわけで、結局あーでもないこーでもないと悶え悩まなければいけない。これは精神衛生上よろしくない。野田秀樹の芝居なんかも、あれ一回だけ見て消化できる客が居るのか?と思う。
・最近はそういう芝居を続けていくつか見ていたので、ある種今回この芝居ですっきりした面はあると思う。一回見て、全体的に合点がいって「ハイ終わり」となってくれる芝居、ちょうど良いのかも知れない。
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