2020年02月23日

塚本普也「野火」の感想というか。

Pop is dead.
・観ようと思いつつ、重そうなので避けていた作品
・映画の感想というより、日本を憂う話になってしまった。ただ、ここ数年私が感じていた「日本の右傾化」を簡単にまとめるとこうなる、という話でもある。
・しかし餓死者140万人ってどういうことだよ?さらに琉球民族を盾にして結果、原爆投下かよ、ミフネが自決して済む問題じゃないだろ、とあまりにも怒りが込み上げてきたので、長い文章になった。
・というわけで、Amazonにもリビューを書いたが、一部、加筆・修正した文章をここにも載せておく。

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 「プライベート・ライアン」前半の、ノルマンディー上陸作戦を描いた映像は素晴らしい物でした。しかし、今作ではそれ以上に「地を這う兵隊が無残に殺されてゆく姿」を描写しています。

 映画全体のプロットは水木しげるの「敗走記」や「総員玉砕せよ!」に似たものを感じます。
 しかしそれらの作品よりも強く感じるのが「大日本帝国陸軍における、人命の軽視」です。兵隊であるから、戦って死ぬのはやむを得ないとしても、一説では戦没者の60%(140万人)は戦闘でなく餓死・病死であったとされており、この数字を見るだけでも軍部(特に陸軍)が兵站(ロジスティクス)を無視して「とにかく兵隊を送りこめ。そこでそいつらが生きようが死のうが構ったこっちゃない」と無謀な戦略を展開していたことが分かります。

 言うなれば天皇陛下や国民に『良いところを見せよう』あるいは、海軍を『出し抜こう』といった上っ面だけの体面で100万人以上の死者を出した、ということです。

 そしてさらにその先には、沖縄の非戦闘員を盾にした、ただの「時間稼ぎ」が始まるわけです。歴史的に、沖縄の人たちは「琉球民族」であり、日本や中国から圧力を受けながら当時、日本に属していたわけですが、いわゆる「大和民族」ではない沖縄の方々を、戦争の「盾」にしたことは、大和民族のの恥ずべき汚点であり、私には、とてもではないけれど平気な顔で「大和民族は『美しい民族』だ」等と言えません。
 さらに戦後70年以上たっても沖縄にリスクを集中させている現状は好ましくないと考えます(これは倫理というより国際政治の問題ですが)

 もってのほかなのは、未だに何人もの政治家が「日本は単一民族の国だ(から美しい)」といった発言を繰り返している事です。「日本本土の楯となって犬死にした琉球民族の方々」、アイヌ、あるいは在日韓国朝鮮人や日本に帰化した人たちを「なかったこと」にしている。こういった他民族への侮辱は、無知であることだけで免罪されるのでしょうか?

 また、近年は日本の極右化が目立っています。日本のニュースでは「ヨーロッパのどこどこでは極右政権が支持を集めている」とは報じますが、安倍晋三が「右派のナショナリストである」という海外からの評価を伝えません。海外では、安倍晋三について「極右 ( Ultra Right )」とも表現されているようです。

 ざくっと言ってしまうと、彼らの考えていることは「今のままでは日本は『敗戦国』のままじゃないか」ということではないでしょうか。もっと極端に言えば「(国家神道を復活させ)もう一回、どこかと戦争をして勝てば『敗戦国』という汚名をすすぐことが出来る」という意識があるのではないでしょうか。

 しかし「敗戦国」というのはそれほど恥ずべきことでしょうか。日本は戦争には負けながらも見事に復興し、特に経済面では世界における存在感(プレゼンス)を大きく上げてきました。戦争に負けても、世界経済において優位に立てた、ということです。

 ただ、日本経済は金融・IT革命に乗り遅れたために90年代から失速しました。そして2000年代以降から台頭してきたのがナショナリズムです。なぜ、ナショナリズムが力を強めたのか?
 理由は「日本の経済的な優位性が弱まったことで『日本人であること』にすがるしかない人が増えたから」だと思います。一部メディアの嫌韓・嫌中への偏向もその影響だと考えます。他民族をdisrespectすることで、自国民を優位に見せようとする、実に下品で愚劣な考え方です。

 そんなふうにごまかすくらいなら、日本は未来永劫「敗戦国」で結構だ、と私個人は考えています。他国の人を罵倒することで、日本人であることを名誉に思うのは、幻想であり、それ以上にとても下賤な考え方だと思います。

 そうではなく正々堂々と「日本には○○があるから誇らしい」と言えるようになりましょうよ。しかもその「○○」は神社仏閣とか禅の思想とか謙譲の心とかいう「借り物」ではなく、あなた自身が関わっている仕事や、あるいはそれ以外の社会活動に根差しているべきだと考えます。
 そして、それができるようになれば、たとえ「敗戦国の国民」であろうが、誇りをもって生きられるでしょう。ましてや隣国の国民をディスる意味などなくなるでしょう。

 ものすごく長くなりましたが、戦争というのはいかに無益で残酷か、そして一部の人が抱いているであろう「敗戦国としての恥」について書かせていただきました。

posted by LSTY | Comment(0) | 映画 | このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーを含むはてなブックマーク
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