
以前読んだ荒俣宏の「図像学入門」よりも理解しやすかった。荒俣宏という人は博識すぎるので、どうも読んでいて置いてけぼりになる。そういう意味で入門書の著者には適さないように思う。
「ダビンチコード」以来、図像学に関連する本はいくつも出ているけれど、とりあえず衝撃的な内容を適当に書いているものが多いように思う。その中ではこの本は随分マトモだし、著者の推論としての大胆な見方も披露されているので、読み物としても面白い。
あと、私は今まで、不見識にも「時代によってイメージの持つ意味が変わる」ということを意識していなかった。考えてみれば当たり前だが。この本では分析対象となる作品をルネッサンス前後のものに絞っているので、そういう点でもわかりやすい。
価値観の変遷とか揺れ動きにも触れているので、図像学というのは一定ではないとか、なんでイメージを「読む」ことが大事なのかを理解するのにも良い。
難を言えばまず表紙が俗っぽすぎること。モナリザはないだろう、と思う。
あと、図版があまりに貧弱である。絵の大きさは、文庫だから仕方ないにしても、コントラスト比も最悪で、非常に見にくい。「何が描かれているか」を読み解く入門書において、これは最大の欠点。
Amazonのレビューには「日本語が分かりにくい」とあるが、どこが分かりにくいのか全く不明。口語調で書かれているので、非常にスムーズに読める。