・キャバクラに「通う」のはやめたわけだけれど、顔出し程度はしないといけないので、年始だし馴染みのキャバ嬢と飲みに行った。飲みに行くのは良いけど、同伴だと、店に入ってから女の子が着替えて出てくるまで10数分待たされる。これが手持ちぶさたである。携帯をいじってるのも馬鹿みたいなので、薄暗い店の中で文庫を読んで待つのが常である。
・そうやって、車谷長吉の「飆風(ひょうふう)」を読んでいた。友達をなくしながら、知人に嫌われながらブンガクしている感じがとても良かった。併録されている「私の小説論」を読んでいて、堪らなくなる。この人の人生観にはあまり同調できないが、しかし泣きそうになる。
・「赤目四十八瀧心中未遂」での、臭ってくるようなセックスの描写に感動して以来、いくつかの短篇を読んだが、なかなか良い。
・この人の小説を読んでいて、いつも思い出すのは村上龍の「ライン」である。あれも、底にいる人、というか普段私が目にしない人を描いた小説で、この「ライン」や車谷長吉の私小説には、自殺を止める力があるように思える。
・自殺を止める力を持った小説、というのはどういう物かというと「『死』に近いが死なない人」を描いた物かなあ、と思う。死について考えている人は、多分そのほとんどが「ポジティブな小説」なんて物を求めてはいない。不快なだけだ。暗く寂しく、しかし生きている人に関する小説を読むことによって、身も蓋もない言い方をすれば「時間稼ぎ」ができる。そして、心の中のなにかが少しだけ動く。つまり、死への衝動を何とかやり過ごすのだと思う。僕の場合はそうだった。
・大阪にいる、背中一面に和彫りを入れた風俗嬢に「初めて会った時、まさか次に指名してくれるとは思わなかった。話も盛り上がらなかったし」と言われた。なんでいつも会いに来てくれるの?と訊かれて、たしかにそうだと思う。
・一つには、その彫り物のことがある。しかしそれだけではないな。その子は、そういう派手な特徴(彫り物だけでなく、金髪のギャルである)を持ちながら随分おとなしい子で、常にローテンションな感じだ。しかし無愛想というわけでもない。自然に、静かな子なのです。そこが気に入ったのだと思う。一緒にいると、何か染み入るような物がある。特に心が弱っている時には、そういう女の子と一緒にいるのが楽なのです。
・風俗嬢で一番なんぎなのが「あからさまに客を軽蔑している女の子」であって、あれは何なのでしょうか、自身の職業に関する強い被差別意識が彼女をそうさせるのか、いつも客に軽蔑され、大事にされないから「優越感ゲーム」的に、客を馬鹿にするのか。
・さてその、大阪の子の彫り物はまだ中途である。いずれ完成した時に、その子は店をやめてしまうのではないかと思う。それは予感だが、店をやめる前に一度、完成した彫り物を最後に見せて欲しいものだと考えている。
・そういえば「赤目四十八瀧〜」にも、背中に彫り物を背負った女が出てくるな。
・そんな感じで、このブログ自体、私小説のようなものです。いや、そんな大したものではないが、できるだけ真実に近い、人生のログみたいなものにしたいと思う。公開を前提としていながらも、このブログは自分のための物、未来の自分が読み返して面白い物じゃなけりゃあ意味がない、と思っているので、その時々の自分の真実を書きたい、とも思うわけです。
・僕は、以前も書いたけど自分に都合の良いことしか書かないブロガーが嫌いなので、あえてこういう話を書いていたりもする。露悪な話ばかり書き過ぎか、と反省しつつあったが、先日友人から「お前のブログは面白い。生き様だから」とか言われて、まあこれで良いのかと思いつつ書いている。
・そういえば昨年、ほとんど飲みに行ったことのない同僚と食事に行った際「○○さんは、自分の人生の中でいろんな事を実験してるような感じですね」と言われて驚いた。あまり話したこともないのに、よく私のことを観察しているな、と思った。キャバクラや風俗で馬鹿みたいに遊ぶのは、いつも実験のようなものだ。
・で、キャバクラの話に戻る。僕のお気に入りは23歳の女の子なんだけれど、話を聞いてみるにつけ、意外と男性経験も少なく、客あしらいも下手というか素人のようなものである。場末のキャバクラというとそんなものなのかも知れないし、そこが逆に魅力だとも言える。
・「今日食事に行きませんか?」というメールが入る、同伴してくれないかというメールだ。「今日は忙しいから行けない」と返信すると、それっきりパッタリ返信は来ない。それほどまでに、客あしらいが上手くない。しかし「食事に行くとしたら、何食べたい?」と訊くと「おすし」とか言う。なかなかに食えない女だ。
・その度毎に「おいおい」と思いながらその子に付き合うのは、そういう子に付き合う自分自身が面白いからなのだと思う。しかしそれ以上に馬鹿をする気はないので「俺は、シャンパンタワーしたり、衣装(店で着る服)を買ってやったりはしないよ」と釘を刺している。まあ、あんまり良い客ではないわけです。
・ほろ酔いでキャバをあとにすると、帰路、嫁に会う。キャバクラ帰りであることを正直に告げる。僕は嘘のつけない人間なのだ。
・最近買った酒、さつま白波と菊正宗。年末年始にかけて白山の大吟醸古酒、羅生門の龍寿と高い酒を飲んだが、私の舌に高い酒は合わない。飽くまでも普通の酒を、普通に飲み続けようと思う。たまに伊丹十三を偲んで「桃の滴」を飲むくらいで良い。
・最近買った本、横尾忠則「東京Y字路」、山田花子「魂のアソコ」、「細野晴臣インタビュー」、「関西のレトロ銭湯」、「マトリョーシカ大図鑑」(沼田元気の本だとは知らずに買った!)
・「東京Y字路」は、僕としては買って良かったと思える良い写真集だけれど、コシマキにある惹句「横尾忠則初にして、空前絶後の写真集!! 」ってのはどうなんだろう?ただ淡々とY字路を撮っただけの写真集、しかもおそらくは写真集として出すのが目的ではなく、創作の取材のために撮った写真を集めたものだろうと思うんだけど、それに「空前絶後」はどうなのよ?と思う。
東京Y字路